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映画ノート

【映画】オリバー!

おとといの19:22、我が家は突然停電に見舞われ、約17時間後の昨日ようやく復旧しました。9割がた仕上げていた『オリバー!』の記事を保存する前だったのですべて消滅。停電以上に悲しかったわぁ。。

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オリバー!(1968)
Oliver!

【あらすじと感想】
ロンドンの孤児院では、子供たちが粉挽きの仕事をさせられている。
腹ペコの子供たちを代表して、オリバーがオートミールのお代わりを要求するが、理事の怒りを買って売りに出されてしまう。
お試しで買われた葬儀屋を抜け出し、ロンドンにたどり着いたオリバー。街で出会った少年ドジャーに案内された廃墟は
フェイギンという老人の仕切る子供窃盗団の隠れ家だった。
 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay6

1968年に製作されたキャロル・リード監督によるミュージカル映画の傑作です。
原作はチャールズ・ディケンズの『オリバー・ツイスト』。

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孤児院で暮らすオリバー君(マーク・レスター)が、腹ペコの仲間を代表して、オートミールの「お代わりをください」ってお願いするシーンが有名な本作。
孤児院を追い出され、外に売りに出されたオリバーが辿る、数奇な運命を描く作品ですが、ミュージカルにしたことで、19世紀のロンドンを鮮やかに描き出すことに成功しています。

冒頭の孤児院のドタバタもいいですが、あらゆる職業の人々が次々に登場し、ロンドンの街を埋め尽くすミュージカルシーンが圧巻!

出演者はいったいどれくらいいるんだ。
エネルギッシュで楽しいパフォーマンスには、初めて外に出たオリバーじゃなくても、見入ってしまいます。

オリバーはドジャーという少年と出会ったことから、窃盗団のアジトで寝泊まりすることになります。

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一味を仕切るフェイギンにロン・ムーディ。コミカルな動きが楽しくてね。
志村けんさんは映画をたくさん観て、コメディの研究をしたと聞くけれど
フェイギンの動きや間のとり方なんかも、絶対に参考にしてるよね。

 そのフェイギンは原作では絞首刑になるらしい。
悪党にはそれなりの制裁が待っているということか。

でも本作ではフェイギンは決して根っからの悪党じゃないという見せ方です。
食事を準備する場面を二度ほど見せているのも印象的で、子供たちに、少なくとも孤児院の子たちよりも美味しそうなものを食べさせてあげている。

老後に不安を抱き小金を貯め込んでいるものの、子供たちを守ることを最優先するところにも優しさを感じます。

 オリバー・リード演じる大泥棒の最期に見るように、泥棒稼業に身を置くものは、いつかは罰を受けると示唆しながらも、フェイギンの処刑までを見せることなく、ドジャーとともに悪の道を行くことに 少しのペーソスと清々しさを感じさせるラストがよかったですねぇ。

 汚い恰好をしていてもどこか品のあるマーク・レスターは出自に秘密のあるオリバーにピッタリ。

 オリバーにはオリバーの、ドジャーにはドジャーの行く道がある。

格差社会を憂うのとも、貧しき者に同情するのともちょっと違う。

裕福な者にも、悪に走る者にも、それぞれの価値観や生きざまがあるというのを描いた人間賛歌。

珠玉の一本かと思います。

 

アカデミー賞では作品賞、監督賞など6部門を受賞。
フェイギン役のロン・ムーディが主演男優賞、ドジャー役のジャック・ワイルド助演男優賞にそれぞれノミネートされました。

 

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個人的にはサイクスの相棒のワンちゃん、ブルズアイに助演ワンワン賞をあげたいです。

【映画】マ・レイニーのブラックボトム

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マ・レイニーのブラックボトム(2020)
Ma Rainey's Black Bottom

【あらすじと感想】
1927年のシカゴ。野心家のトランペッター、レヴィーが所属するバンドは「ブルースの母」と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニーのレコーディングに参加した。
レコーディングが進むにつれて、マ・レイニーは白人のマネジャーやプロデューサーと激しく衝突するようになり……。

 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay5

アカデミー賞にノミネートされた作品についても少し。
今日は主演男優賞にノミネートされたチャドウィック・ボーズマンの『マ・レイニーのブラックボトム』。
昨年、43歳の若さで亡くなったボーズマンの遺作となりました。


ジョージ・C・ウルフ監督によるNetflix作品である本作はブルースの母マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)がシカゴのスタジオでレコーディングする、1927年のとある一日を描く作品です。

1927年といえば、まだ黒人には公民権も与えられてませんから、差別のはびこる時代だったでしょう。それでも南部では黒人は独自の文化を持ち、その一つがブルースなどの音楽です。

冒頭、森の中に設置されたテントの舞台では、金歯を光らせたマ・レイニーがダンサーをバックに歌っている。
私の思うブルースよりも派手な印象。元祖はこんな風だったんだ。

そのマがレコーディングのために、白人のプロデュースするシカゴのスタジオに凱旋する。当時にしてみれば物凄いことだったでしょうね。

バックバンドのメンバーたちは、マ一行とは別に列車でやってきます。
大きな楽器を抱えた黒人たちを、道行く人々が驚いたように振り返るのが印象的。
一方、お気に入りのダンサーと甥っ子を従えてピカピカの新車で乗り付けるマ・レイニーですが、着くなりちょっとした事故に遭ってひと悶着。白人の警官など、新車に乗る黒人を泥棒扱いです。

序盤からの一連の場面からだけでも、南部と北部における黒人の立場の違いがよくわかりますね。
白人にとって黒人は虫けら同然の存在だった当時でも
ブルースで名を馳せたマ・レイニーの人気は絶大で、北部に暮らす白人音楽プロデューサーとてこれを無視できなくなっていた。
本心では完全に見下しているくせに、なんとかレコーディングを成功裏に収めたい白人と白人なんかにイニシアティブを握られてたまるもんかと虚勢を張るマ・レイニー。
双方の攻防が見ものです。

マを演じるのはヴィオラ・デイヴィス
ふくよかなボディは実際に増量したのか、ボディスーツか、はたまたCGかは知りませんけど、貫禄とすごみが凄い。
両刀使いらしいじっとりとした厭らしさを醸し出しつつ、母性も感じさせる演技の深さ。ブルースも見事に歌い、じっくり見ても本人とわからないヴィオラ・デイヴィスの作り込みは圧巻です。

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ボーズマンが演じるのはレコーディングに参加するバンドのメンバー、レヴィー。

彼も軽くステップを踏み鼻歌を歌う、それだけでも音楽に通じたバンドマンと感じさせる演技。2016年にはすでに大腸がんに罹患し、がん治療の合間に映画に出ていたとのことで、本作の彼も頬がこけるほど痩せている。トランペットを吹くのも、感情をあらわに慟哭するのも、さぞ体力が要ったことでしょう。
「神などいない」とうそぶくさまに、病に冒されたボーズマン自身の無念を重ねずにはおれません。

タイトルのブラックボトムというのはマ・レイニーの歌うブルースの曲名ですが
歌の内容を把握してないので、ブラックボトムが黒いズボンという意味なのかどうかは分からないのだけど、破ったドアの外の、レヴィーがいる壁に囲まれた空間こそが黒い底「ブラックボトム」じゃないかと、ダブルミーニングを思い、泣けました。

原作はオーガスト・ウィルソンによる戯曲。
役者陣のうまさもさることながら、黒人差別の歴史やブルースの音楽変遷も見せてくれる興味深い一編です。

 

【映画】エデンの東

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エデンの東(1955)
East Of Eden

【あらすじと感想】
24歳のキャルは農場を営む父が兄ばかりをかわいがっていると感じ、心を痛めていた。兄の恋人はそんな彼の心中を察するのだが……。

 

『31 days of oscar 2021』祭り ーDay4

古い作品が続きますが、今日も「アカデミー史上初」というくくりです。

今回は『エデンの東』。
ジェームス・ディーンが「アカデミー史上初」死亡後に主演男優賞にノミネートされた作品ですね。それ以前にも音楽関係や撮影、脚本の分野では「死亡後のノミネート」はありましたが、演技賞の分野でははじめて。しかも、その翌年にもディーンは『ジャイアンツ』で同賞にノミネートされてます。
どちらも受賞には至りませんでしたが、「死亡後、2年連続で」主演男優賞にノミネートされたのも、アカデミー史上初ですね。


さて、エリア・カザンが監督した『エデンの東』は、旧約聖書カインとアベルを下敷きに、親の愛情を渇望する主人公キャルが悩みながら父親と和解する姿を描く青春ドラマ。

原作者のスタインベックがディーンを主役に推したと言われていて、ディーンはこの映画で時代の寵児となりました。

正直、昨年初めてこれを観たときには、キャルの自己破滅的な行動の数々に引いてしまって、全然好きではなかったんですよね。ディーンも作品も(汗)

再見すると、キャルは意外とビジネスの才があり、父親に認められようと頑張る青年だったと気づきます。
父親がキャルを受け入れなかったのも、キャルが別れた妻の性格に似ていたからで、
妻に去られたことが、宗教に篤く、完璧主義者の父アダムの心に闇を作っていたことなど、初見では気づけなかった、キャルを取り巻く人々の事情がよく見えてきました。

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キャルの双子の兄アーロンに関しても、初見時には、キャルの悪意により絶望から出征し、婚約者は奪われ、その後の行方も語られない兄の方に同情してしまったのだけど、キャルが父親に認められ始めると自暴自棄な態度を見せるようになるアーロンは、思えばキャルとは合わせ鏡なんですよね。そんな人物描写の妙にも面白さを感じました。

 

まぁ、比べられるというのは、なにかと増悪を生みますよね。

某国のプリンセス(嫁)しかり・・

残念ながら『カインとアベル』の物語を知らないので、この映画の観方はよく分かってないです。「赦すことができれば、変わることができる」とキャルに説いたアブラの存在含め、聖書を理解したうえで、文学的に解釈すべき作品だろうと思うので、いつか原作を読んだうえで再見するとしましょう。

【映画】野のユリ

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野のユリ(1963)
Lilies of the Field

【あらすじと感想】
放浪中の自由人、黒人青年ホーマー・スミスはアリゾナで車の故障に遭い、通りがかったバロックで水をもらうことに。そこにはヨーロッパからやってきた5人の修道女が暮らしており、スミスは院長に大工仕事をオファーされる。
断り、立ち去ろうとするスミスだったが、懐の寂しさに思いなおし屋根の修理を手伝う。しかし賃金は支払われず、院長はさらに「教会を建てなさい」と無謀な要求をしてきた。院長にとって、スミスは神が遣わした助っ人だったのだ……。

 

『31 days of oscar 2021』祭り ーDay3

 

放浪中の黒人青年が、通りがかりの修道院で、教会建設の手伝いをするさまを、ユーモラスかつ清々しく描くヒューマンドラマの傑作です。監督は『ソルジャー・ブルー』のラルフ・ネルソン(『野のユリ』ではMr.アシュトン役でも出演)。

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今年93回目を迎えるアカデミー賞の長い歴史の中では、たくさんの「アカデミー史上初」がありますが、第36回目のアカデミー賞で、黒人で初めて主演男優賞に輝いたのが本作のシドニー・ポワチエ
黒人差別が残る1963年にあっては、これは画期的なことだったでしょう。

ポワチエと言えば、代表作の『夜の大走査線』や『招かれざる客』でも黒人差別が描かれていて、そういう作品で使われるのは黒人俳優の宿命ともいえる時代だったはず。ところが、『野のユリ』に関しては、差別描写が全くと言っていいほどないんですよね。

 

大きな夢を持ちながら、十分な教育を受けられなかったらしいスミスの背景に、それほど裕福ではなかったであろうバックグラウンドを匂わせはするものの、肌の色が黒いことも、修道女たちへの「英会話レッスン」の中で、「色」として教えるくらいで、差別の概念はゼロ。素朴で奔放なスミスはあくまでアメリカ人の象徴です。

 

彼はしぶしぶ始めた教会建設を通じ、東ドイツからの移民であるマリア院長やメキシコ人労働者と衝突しながらも、相手を理解し、互いに成長していきます。

修道院で提供される粗末な食事に不満をもらしながらも、シスターたちには礼儀正しく優しく接するスミス。
手振り身振りを交えた「英会話レッスン」の楽しさは「エイメン♪」とうたう黒人霊歌と並んで、この映画の最大の売りでしょう。

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明るく大らかなスミスと、無邪気なシスターたちの相性は抜群。英語の「Yeah!」とも微妙に発音の違う「ヤァー!」で心を通わせるさまも実に清々しいんですよね。

宗教や国籍が違っても、同じ人間同士、わかりあえないことはない。
「Yeah!」は平和の合言葉。

民族紛争の今こそ、世界中の人に観て欲しいと思う一本です。

 

ところで、本作の続編として、79年にTVムービー『Christmas Lilies of the Field』が製作されているのをご存じでしょうか。
同じラルフ・ネルソンが監督してるということで、YouTubeに投稿されてるものをチェックしてみました。

『野のユリ』の終盤のシーンをそっくり再現したあと、数年後にスミスが再び帰ってくるという物語なんですが早々にリタイアしてしまいました。

スミス役を演じるのは『スター・ウォーズ』シリーズのランド・カルリジアンで知られるビリー・ディー・ウィリアムズで決してB級な役者ではないんですが、オリジナルのスミスの大らかさがなくて、どうも楽しくない。

あらためてポワチエの魅力を確認した次第です。

【映画】時の面影

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時の面影(2021)
The Dig

【あらすじと感想】
第2次世界大戦が迫るイギリス、サフォーク州。未亡人のエディスは、自身が所有する土地にある墳丘墓を発掘するため、
経験豊富なアマチュア考古学者バジルを雇う。やがて彼らは、予想していたより遥かに古い時代の歴史的遺産を発見するが……。

 

『31 days of oscar 2021』祭りーDay2

 

イギリスの遺跡サットン・フーの遺跡発掘を巡る実話を題材にしたNetflixオリジナル作品です。監督は俳優出身のサイモン・ストーン。


オスカーにはノミネートされてないですが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演女優賞にノミネートされたキャリー・マリガンの主演作である点と
英国アカデミー賞で「英国作品賞」や「美術賞」「衣装デザイン賞」の候補に選ばれていることから、取り上げることにしました。

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キャリー・マリガン演じるエディスは考古学に興味があり、結婚とともに古墳の眠っていそうな広大な土地を所有するも、わずか一年で大佐だった夫に先立たれ、息子のロバートと、住み込みの執事や女中らと暮らしています。

プライドの高そうな執事に『日の名残り』を彷彿としますが、エディス自身はつましい服装に身を包み、穏やかな微笑みをたたえる素敵な女性。
しかし身体に異変を感じ、不安を覚える日々を過ごしています。

そんなエディスが所有地の遺跡発掘に乗り出したのは、亡き夫との約束を果たすためなのか、詳しくは語られませんが、彼女はラルフ・ファインズ演じる経験豊かな考古学者のバジルを雇い入れるのでした。

 

原題は『The Dig』
まさに、掘ること、発掘することを意味し、映画の中でも掘るシーンがたくさん出てきますが、「何かを求めて掘る」という、この言葉の本来の意味もタイトルの由来でしょう。

発掘が進み、思わぬ遺跡が顔を見せる一方で、エディスの身体は弱っていく。
息子に心配をかけたくなくて、病を隠し続けるエディス。
年端もいかぬロバートを遺して逝くことが辛すぎるのです。

でも、母親が案じるほど、彼は子供ではないのですよね。

やがて、エディスは息子の思いがけぬ成長を目の当たりにします。
その成長を助けることになるのが、エディスが誠実に育んできた周囲の人との関係であり、信頼できる人からのアドバイスでした。

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何千年もの時を過ごした遺跡に比べると、人の命など一瞬にすぎないかもしれないけれど、短い命だからこそ、丁寧に生きなきゃなと考えさせられます。

人が文化を生み、歴史を紡いでいくことを思うと、命もまた悠久の時の一部だということ。「遺跡を掘る」ことから知ることになる、これらのメッセージこそが映画の伝えたかった事でしょう。

 

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 ところで、原作者、あるいは監督は仏教徒だろうかと ふと思いました。
劇中、バジルが発掘現場で崩落に呑まれ、仮死状態に陥るシーンがあるんですが
人工呼吸で息を吹き返したバジルに、エディスが「(意識が戻る前に)何か見えた?」と問うのですよ。

「祖父の姿が浮かんだ」とバジル。
そのシーンから、仏教的な「お迎え」をイメージしてしまったのは私だけかしら。
死期が近いからこそ、エディスは死の間際の世界に興味を持ったのかなと。

そんなことを思いました。

面白いのは一連のやり取りの後、バジルがすぐに現場に戻り発掘を始めること。
そこは、最初にエディスが「掘って欲しい」と希望したにも関わらず、バジルが却下していた丘陵。
結果、その場所で世紀の発見がなされるわけで・・

バジルの祖父は彼に考古学の全てを教えた師だったことから、
これって「おじいちゃんのお導き?」と、さりげにスピリチュアルな展開を楽しんだのでした。

ともあれ
バジルとエディス、エディス母子、バジル夫妻、共演のリリー・ジェームズとジョニー・フリンなど、出演者それぞれの心情描写が丁寧で、戦争の時代を生きる人々のヒューマンドラマとして見ごたえあり。
映像も美しく、観た後に心が浄化された気になる作品でした。