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映画ノート

【映画】ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-

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ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-(2020)
Hillbilly Elegy

【あらすじと感想】
名門イェール大学に通うJ.D.ヴァンス(ガブリエル・バッソ)は、就職の面談を前日に控えたある日、姉からの電話で母親が薬物中毒で入院したことを知る。
今また彼の人生に家族の問題が立ちはだかろうとする中、J.Dは故郷に帰省し、過去に思いを馳せる。
 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay7

J・D・ヴァンスによる回顧録ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』を映画化したNetflix作品です。
監督は『アポロ13』のロン・ハワード

荒廃した田舎町で貧困にあえぐ3世代の家族の現実を、孫世代に当たる原作者が回顧録としてしたためたものです。
これ、観終わって思うのは、原作の副題”アメリカの繁栄から取り残された白人たち”のあたりは、あまり感じなかったなぁということ。

郷愁に重きを置いたのかもしれませんが、映画の半分以上はホワイト・トラッシュと言われる白人家族の、荒んだ暮らしぶりが描かれ、正直観ていて辛い。
しかし、そんな暮らしの中から、弁護士になってベストセラー本まで執筆した孫息子が出たのは大したものです。


何が彼の人生を変えたのか。
これからご覧になる方は前半ちょっと我慢して、中盤以降に描かれる、おばあちゃんの頑張りご覧ください。


悪の連鎖を断ち切り、D.Jの人生に光をもたらす役割を担ったのが、おばあちゃんです。
貧困の根底には「不幸な状況に身を置くことを、誰かのせいにして諦める」ことがあるという部分には、ハッとさせられるものがありました。

おばあちゃんを演じるのはグレン・クローズ
今回、怪演と評される演技でアカデミー賞候補になりましたが、
同時に、ラズベリー賞のワースト助演女優賞にもノミネートされてるんですよね。
思うに、あまりにも本物ソックリなところが悪評に繋がったのではないだろうか。

伝記ものによくあるように、本作でも最後に写真の「ご本人」たちが登場するんですが
本物なのかグレンなのかわからないくらいにそっくりなんですよねw
おばあちゃんの奮闘で、孫の人生が変わり始めるさまには感動するし、グレンも忠実に役をこなしていると思うんですが、普段の上品な雰囲気とのギャップが凄くて、ギャグに思えるほどというか・・(汗)

アカデミー賞技術部門では、メイクアップ&ヘアスタリング賞にもノミネートされていて、娘役のエイミー・アダムスも激似。
演技の巧さよりも作り込みが印象に残ってしまったので、ソックリ劇場もほどほどがいいのかも。

 


【Personal Note】
今回から個人的なつぶやきをPersonal Noteとして書き添えることにしました。
ささやかなあとがきです。

・・・・・・・・・・・・

グレン・クローズのノミネートに関連し、私自身のちょっと苦い思い出についてひとこと。
グレンさんは一昨年も『天才作家の妻 -40年目の真実- 』でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたんですよね。インディペンデント・スピリット賞ゴールデン・グローブ賞を受賞し、アカデミー賞でも、ついに!と期待された年でした。


私はTwitterを通じ、ブログ仲間と授賞式を楽しんでいたのですが、グレンが受賞を逃したことで、トラブル発生。

がっかりするブログ仲間の一人に「またいつかとれるよ」と声をかけ、ひどく怒らせてしまったのです。

「8回ノミネートされ結局一度も受賞がかなわなかったピーター・オトゥールを知らないのか」と。「安易な言葉は人を傷つける」と、叱られました。

グレンも今年オトゥールに並ぶ8回目のノミネートです。
大方の予想ではグレンの受賞の確率は低そうで、「歳をとると機会も少なくなる」との言葉も蘇ります。

実力者が必ずしもいい作品に恵まれるわけでもなく、
いい作品に恵まれたとしても、その上を行く人も出てくる
受賞は時の運という側面もあって、本当に難しいのだと
自分の言葉は安易だったと思い知ることになりました。

ごめんなさいと、なかなか素直に言えないけれど
いつか、反省の気持ちを伝えようと思う今日の日です。

シーサイドガーデンでランチ

昨日はランチに、シーサイドガーデンさんというカフェにお邪魔しました。

可愛い2匹のワンちゃんがお出迎え。

 

マリンブルーの海に面した庭が綺麗に手入れされ、とっても素敵です。

お庭はこんな感じ。

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ピザ窯もいいなぁ。

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入場料の500円にはドリンク代が含まれ
食事はハンバーガー一択(パテはシングルかダブルかをチョイスします)

待ってる間、海を眺めながらまったり。
長閑だぁ。

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聞けばここは作家の森瑤子さんの別荘だったそう。
お気に入りの場所だったに違いありません。

町の図書館に森瑤子さんのコーナーが広々とあったのは
島とのそんなゆかりからでしたか。

 

海を眺めながらバーガーをいただきました。

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デザートのミルクレープはお腹と相談して断念。
持ち帰れないとのことなので
また今度、おやつ目的でお邪魔するとしましょう。

 

こんな素敵な場所に来ると、
家の庭もどうかしないとな、と思いますね。
今朝はさっそく草取りしました(笑)

たまに刺激をもらうのがいいですね。 

【映画】オリバー!

おとといの19:22、我が家は突然停電に見舞われ、約17時間後の昨日ようやく復旧しました。9割がた仕上げていた『オリバー!』の記事を保存する前だったのですべて消滅。停電以上に悲しかったわぁ。。

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オリバー!(1968)
Oliver!

【あらすじと感想】
ロンドンの孤児院では、子供たちが粉挽きの仕事をさせられている。
腹ペコの子供たちを代表して、オリバーがオートミールのお代わりを要求するが、理事の怒りを買って売りに出されてしまう。
お試しで買われた葬儀屋を抜け出し、ロンドンにたどり着いたオリバー。街で出会った少年ドジャーに案内された廃墟は
フェイギンという老人の仕切る子供窃盗団の隠れ家だった。
 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay6

1968年に製作されたキャロル・リード監督によるミュージカル映画の傑作です。
原作はチャールズ・ディケンズの『オリバー・ツイスト』。

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孤児院で暮らすオリバー君(マーク・レスター)が、腹ペコの仲間を代表して、オートミールの「お代わりをください」ってお願いするシーンが有名な本作。
孤児院を追い出され、外に売りに出されたオリバーが辿る、数奇な運命を描く作品ですが、ミュージカルにしたことで、19世紀のロンドンを鮮やかに描き出すことに成功しています。

冒頭の孤児院のドタバタもいいですが、あらゆる職業の人々が次々に登場し、ロンドンの街を埋め尽くすミュージカルシーンが圧巻!

出演者はいったいどれくらいいるんだ。
エネルギッシュで楽しいパフォーマンスには、初めて外に出たオリバーじゃなくても、見入ってしまいます。

オリバーはドジャーという少年と出会ったことから、窃盗団のアジトで寝泊まりすることになります。

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一味を仕切るフェイギンにロン・ムーディ。コミカルな動きが楽しくてね。
志村けんさんは映画をたくさん観て、コメディの研究をしたと聞くけれど
フェイギンの動きや間のとり方なんかも、絶対に参考にしてるよね。

 そのフェイギンは原作では絞首刑になるらしい。
悪党にはそれなりの制裁が待っているということか。

でも本作ではフェイギンは決して根っからの悪党じゃないという見せ方です。
食事を準備する場面を二度ほど見せているのも印象的で、子供たちに、少なくとも孤児院の子たちよりも美味しそうなものを食べさせてあげている。

老後に不安を抱き小金を貯め込んでいるものの、子供たちを守ることを最優先するところにも優しさを感じます。

 オリバー・リード演じる大泥棒の最期に見るように、泥棒稼業に身を置くものは、いつかは罰を受けると示唆しながらも、フェイギンの処刑までを見せることなく、ドジャーとともに悪の道を行くことに 少しのペーソスと清々しさを感じさせるラストがよかったですねぇ。

 汚い恰好をしていてもどこか品のあるマーク・レスターは出自に秘密のあるオリバーにピッタリ。

 オリバーにはオリバーの、ドジャーにはドジャーの行く道がある。

格差社会を憂うのとも、貧しき者に同情するのともちょっと違う。

裕福な者にも、悪に走る者にも、それぞれの価値観や生きざまがあるというのを描いた人間賛歌。

珠玉の一本かと思います。

 

アカデミー賞では作品賞、監督賞など6部門を受賞。
フェイギン役のロン・ムーディが主演男優賞、ドジャー役のジャック・ワイルド助演男優賞にそれぞれノミネートされました。

 

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個人的にはサイクスの相棒のワンちゃん、ブルズアイに助演ワンワン賞をあげたいです。

【映画】マ・レイニーのブラックボトム

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マ・レイニーのブラックボトム(2020)
Ma Rainey's Black Bottom

【あらすじと感想】
1927年のシカゴ。野心家のトランペッター、レヴィーが所属するバンドは「ブルースの母」と呼ばれた伝説的歌手、マ・レイニーのレコーディングに参加した。
レコーディングが進むにつれて、マ・レイニーは白人のマネジャーやプロデューサーと激しく衝突するようになり……。

 
『31 days of oscar 2021』祭り ーDay5

アカデミー賞にノミネートされた作品についても少し。
今日は主演男優賞にノミネートされたチャドウィック・ボーズマンの『マ・レイニーのブラックボトム』。
昨年、43歳の若さで亡くなったボーズマンの遺作となりました。


ジョージ・C・ウルフ監督によるNetflix作品である本作はブルースの母マ・レイニー(ヴィオラ・デイヴィス)がシカゴのスタジオでレコーディングする、1927年のとある一日を描く作品です。

1927年といえば、まだ黒人には公民権も与えられてませんから、差別のはびこる時代だったでしょう。それでも南部では黒人は独自の文化を持ち、その一つがブルースなどの音楽です。

冒頭、森の中に設置されたテントの舞台では、金歯を光らせたマ・レイニーがダンサーをバックに歌っている。
私の思うブルースよりも派手な印象。元祖はこんな風だったんだ。

そのマがレコーディングのために、白人のプロデュースするシカゴのスタジオに凱旋する。当時にしてみれば物凄いことだったでしょうね。

バックバンドのメンバーたちは、マ一行とは別に列車でやってきます。
大きな楽器を抱えた黒人たちを、道行く人々が驚いたように振り返るのが印象的。
一方、お気に入りのダンサーと甥っ子を従えてピカピカの新車で乗り付けるマ・レイニーですが、着くなりちょっとした事故に遭ってひと悶着。白人の警官など、新車に乗る黒人を泥棒扱いです。

序盤からの一連の場面からだけでも、南部と北部における黒人の立場の違いがよくわかりますね。
白人にとって黒人は虫けら同然の存在だった当時でも
ブルースで名を馳せたマ・レイニーの人気は絶大で、北部に暮らす白人音楽プロデューサーとてこれを無視できなくなっていた。
本心では完全に見下しているくせに、なんとかレコーディングを成功裏に収めたい白人と白人なんかにイニシアティブを握られてたまるもんかと虚勢を張るマ・レイニー。
双方の攻防が見ものです。

マを演じるのはヴィオラ・デイヴィス
ふくよかなボディは実際に増量したのか、ボディスーツか、はたまたCGかは知りませんけど、貫禄とすごみが凄い。
両刀使いらしいじっとりとした厭らしさを醸し出しつつ、母性も感じさせる演技の深さ。ブルースも見事に歌い、じっくり見ても本人とわからないヴィオラ・デイヴィスの作り込みは圧巻です。

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ボーズマンが演じるのはレコーディングに参加するバンドのメンバー、レヴィー。

彼も軽くステップを踏み鼻歌を歌う、それだけでも音楽に通じたバンドマンと感じさせる演技。2016年にはすでに大腸がんに罹患し、がん治療の合間に映画に出ていたとのことで、本作の彼も頬がこけるほど痩せている。トランペットを吹くのも、感情をあらわに慟哭するのも、さぞ体力が要ったことでしょう。
「神などいない」とうそぶくさまに、病に冒されたボーズマン自身の無念を重ねずにはおれません。

タイトルのブラックボトムというのはマ・レイニーの歌うブルースの曲名ですが
歌の内容を把握してないので、ブラックボトムが黒いズボンという意味なのかどうかは分からないのだけど、破ったドアの外の、レヴィーがいる壁に囲まれた空間こそが黒い底「ブラックボトム」じゃないかと、ダブルミーニングを思い、泣けました。

原作はオーガスト・ウィルソンによる戯曲。
役者陣のうまさもさることながら、黒人差別の歴史やブルースの音楽変遷も見せてくれる興味深い一編です。

 

【映画】エデンの東

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エデンの東(1955)
East Of Eden

【あらすじと感想】
24歳のキャルは農場を営む父が兄ばかりをかわいがっていると感じ、心を痛めていた。兄の恋人はそんな彼の心中を察するのだが……。

 

『31 days of oscar 2021』祭り ーDay4

古い作品が続きますが、今日も「アカデミー史上初」というくくりです。

今回は『エデンの東』。
ジェームス・ディーンが「アカデミー史上初」死亡後に主演男優賞にノミネートされた作品ですね。それ以前にも音楽関係や撮影、脚本の分野では「死亡後のノミネート」はありましたが、演技賞の分野でははじめて。しかも、その翌年にもディーンは『ジャイアンツ』で同賞にノミネートされてます。
どちらも受賞には至りませんでしたが、「死亡後、2年連続で」主演男優賞にノミネートされたのも、アカデミー史上初ですね。


さて、エリア・カザンが監督した『エデンの東』は、旧約聖書カインとアベルを下敷きに、親の愛情を渇望する主人公キャルが悩みながら父親と和解する姿を描く青春ドラマ。

原作者のスタインベックがディーンを主役に推したと言われていて、ディーンはこの映画で時代の寵児となりました。

正直、昨年初めてこれを観たときには、キャルの自己破滅的な行動の数々に引いてしまって、全然好きではなかったんですよね。ディーンも作品も(汗)

再見すると、キャルは意外とビジネスの才があり、父親に認められようと頑張る青年だったと気づきます。
父親がキャルを受け入れなかったのも、キャルが別れた妻の性格に似ていたからで、
妻に去られたことが、宗教に篤く、完璧主義者の父アダムの心に闇を作っていたことなど、初見では気づけなかった、キャルを取り巻く人々の事情がよく見えてきました。

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キャルの双子の兄アーロンに関しても、初見時には、キャルの悪意により絶望から出征し、婚約者は奪われ、その後の行方も語られない兄の方に同情してしまったのだけど、キャルが父親に認められ始めると自暴自棄な態度を見せるようになるアーロンは、思えばキャルとは合わせ鏡なんですよね。そんな人物描写の妙にも面白さを感じました。

 

まぁ、比べられるというのは、なにかと増悪を生みますよね。

某国のプリンセス(嫁)しかり・・

残念ながら『カインとアベル』の物語を知らないので、この映画の観方はよく分かってないです。「赦すことができれば、変わることができる」とキャルに説いたアブラの存在含め、聖書を理解したうえで、文学的に解釈すべき作品だろうと思うので、いつか原作を読んだうえで再見するとしましょう。