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映画ノート

英国王 給仕人に乾杯!


2006年(チェコスロバキア)監督:イジー・メンツェル出演:イヴァン・バルネフ/オルドジフ・カイゼル/ユリア・イェンチ/マルチン・フバ/マリアン・ラブダ   ヨゼフ・アブルハム/ルドルフ・フルシンスキー/イシュトヴァン・サボー【ストーリー】背丈は小さくても百万長者になるという大きな夢を抱く青年、ヤン。田舎町のホテルでレストランの見習い給仕となった彼は、順調にステップ・アップを重ねていつしかプラハ随一の“ホテル・パリ”で主任給仕となる。一方、隣国ドイツではヒトラーが台頭、やがてプラハナチスの占領下となっていく。そんな中、ズデーデン地方のドイツ人女性リーザと出会い、恋に落ちるヤンだったが…。
■感想
チェコを代表する作家フラバルのベストセラーを映画化したコメディ・ドラマです。
監督はチェコの巨匠と言われるジー・メルツェン
「観るべき映画」の中にも入ってた『厳重に監視された列車』はこの監督さんのデビュー作だったんですね。

背丈はちっちゃいけど夢は大きく。億万長者になることを夢見る青年ヤンが物語りの主人公です。
田舎の駅でフランクフルトを売っていたヤン(イヴァン・バルネフ)は、小さなカフェやレストランでの給仕を経て、プラハ随一のホテル・パリの主任給仕人になり、最後は本当に億万長者になってしまう。

でも夢が実現したと思った矢先、彼は投獄されてしまうことに。
15年の刑期を14ヶ月と9ヶ月で出所したヤンが語る、彼の波瀾万丈な人生とは。。


青年時代の小さなヤンが、まるで「トムとジェリー」のアニメの登場人物のような軽妙な動きで
彼の軽やかでアイロニカルな存在がコメディに絶妙な面白さを与えています。

この映画で印象的なのは、ヤンが給仕することになる金持ちたちの優雅さと滑稽さ。
色、金、食という欲求を満たす人間たちがエロティックかつユーモラスなんですね。
で、全編アイロニカルなコメディなのかと思いきや、、途中からはトーンが一転。
第二次世界大戦前後という時代背景。ドイツによる侵攻を経て、古き良きチェコが変わっていく様が描かれます。



面白いのはタイトルになってる「イギリス王に給仕した男」は主人公ではなく、ヤンの勤めるホテル・パリの給仕長のこと。
世界各国の言葉を自在に操るのに、徹底したアンチ・ドイツ派の彼は、「ドイツ語は話せません」で通すんですが
そんなところに、この作品の背景にあるチェコとドイツのお国事情が見え隠れしています。

激動の時代に、小さなヤンが初めて恋した同じく背の小さな女性リーザがズデーデン地方のドイツ人女性。
セックスの時もリーザはヒットラーの肖像から目を離さず、、というのがなんとも皮肉です。
リーザに見覚えがあるような‥と思ったら『白薔薇の祈り~』でゾフィーを演じたユリア・イェンチでした。



ラスト、全てを無くした今、それでもビールは美味しい。
色々あった人生だったけど、給仕することの誇りを忘れていない主人公が静かに人生を再開する様子が穏やかでした。


ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞の他、本国チェコの映画賞を総なめにしたそうです。


★★★★☆