生きる
■感想
世界の巨匠シリーズ8本目
昨日に引き続き日本の巨匠、黒澤作品をもう一本。
主人公の渡辺は役場の市民課課長の初老の男。
早くに妻を亡くし、懸命に一人息子を育ててきたが、その息子も結婚。
早くに妻を亡くし、懸命に一人息子を育ててきたが、その息子も結婚。
もはや愛情を注ぐものもなく、仕事も惰性でこなすだけだった。
そんなある日、体調に異常を感じ、病院を訪ねた渡辺は、胃がんで余命いくばくもないことを悟ってしまう。
そんなある日、体調に異常を感じ、病院を訪ねた渡辺は、胃がんで余命いくばくもないことを悟ってしまう。
振り返れば自分の人生はなんと無意味だったのだろう。
そう思った主人公が、あることをきっかけに
それまで役場内をたらいまわしにされてきた「小公園をつくる」ことに向け力を注ぐようになります。
今からでも遅くはない。何かに真剣に取り組みたい・・・。
黒澤監督はこんなヒューマンドラマも撮ってるんですね。
余命を悟った人間が自分の死を受け入れるまでの心理を巧みに描きつつ
「生きる」とはどういうことかを問いかけます。
自分の病気のことを家族に話すことも出来ず、孤独に「命短し、恋せよ乙女・・」と歌う姿には
たまらず涙。
でもこうした前半と違った様相を見せるのが後半。
主人公渡辺の葬儀に集った役場の面々が故人をしのびつつ、公園が完成に至ったのは
渡辺の力によるものだったかどうかを語り合うシーン。
このシーン、役場の人間それぞれの個性が反映されていて、さしずめ葬式版『12人の怒れる男』。
事なかれ主義の公務員の実態を暴きだし、痛烈な批判を感じるところだけど
だんだんに彼らが思い出す渡辺の様子から、その最後の生き様が浮き上がってくる
そして、その姿に全員心を打たれるという仕組み。
ただし、自分を振り返り、渡辺に続こうと誓い合う様子は、いささかこっけいでここで私は泣き笑い。
出来すぎなんじゃない?と思ったらラストはシニカルに締めていた、そこはさすが(笑)
主人公はわずかに残された5ヶ月という時間で、悔いのない人生を全うしようとした。
そのことをちゃんと分かっている人たちがいたことにも感動しました。
誰でも何かをしようとすれば遅すぎることはないんだ。
死を、そして人生について考えさせられる秀作でした。
渡辺を演じた志村喬は、鬼気迫る執念の様子、死に向かう自分と対峙する悲しみの表情、
ブランコでの歌など心に残る演技でした。
ブランコでの歌など心に残る演技でした。