しまんちゅシネマ

映画ノート

ムーンライティング

 

cinema de しりとり 33回目 【む】

今日はしりとり。『チャイナ・シンドロームローム』から繋がって「む」から始まるのは映画をば。
イエジー・スコリモフスキの日本未公開作品『ムーンライティング/Moonlighting』です。

 
ムーンライティング (1982) イギリス
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:ジェレミー・アイアンズ/ユージン・リピンスキ/Eugeniusz Haczkiewicz
【ストーリー】
1981年、冬。ノヴァクをリーダーとする4人の男が空港から降り立つ。
彼らは、ロンドンのアパートの一室の改造工事を請け負い、ポーランドからやってきた不法労働者だ。
4人はアパートに住みながら、工事に取り掛かるが、
まもなくして、祖国ポーランドでは戒厳令がしかれ、外からの連絡は一切取れなくなる・・。

ポーランド出身のイエジー監督が、ポーランド民主化運動を背景に撮りあげた作品です。
映画の時代背景となる1981年の12月には、戒厳令が公布され約一年間続いたんですね。

f:id:puko3:20210119145057j:plain

 
ノヴァクを演じるのはジェレミー・アイアンズ
英語を喋れるということで、リーダーとして仕事を任されているのですが
彼は祖国ポーランドで起こっている事実を、仲間に伝えることができず
あらゆる情報を隠し、仲間に仕事を強いります。
ポーランドと連絡も付かないことから、お金も尽きてくるなか
万引きを繰り返し、なんとか帰国の資金を維持しようとするノヴァク・・
 
祖国に政治的な問題が勃発し、よその国に取り残されるという点で
『ターミナル』を思い出すところだけど
本作では、一人だけ事実を知っているアイアンズが、仲間に真実を隠し立ち回る様子が
滑稽でもあり、スリリングでもあり
でも、彼らは本当にポーランドに帰れるのかと、観てるほうは気が気じゃないんですね。
 
言葉も分からず、言われるままに労働に従う3人の労働者に、
ポーランドの国の情勢を被せているのかな など、いろんな解釈ができますね。
時々「なんじゃこりゃ?」なシーンがはさまれるのが監督らしい感じかな。

コメディの形をとりながら、
ポーランド出身の監督ならではの憤りや、悲哀がつめこまれた作品でした。
 
本作はカンヌで脚本賞を受賞
戒厳令勃発の翌年にカンヌに出品していることからも、世界に事実を発信しようとする
監督の思い入れを感じるところ。
高い評価を得ている作品なのに、日本ではまったく情報もないのが寂しい。