しまんちゅシネマ

映画ノート

シャブロル塗りつぶし 『甘い罠』

 
シャブロル塗りつぶし を忘れてました。
ってことで、今日は、シャーロット・アームストロングの『見えない蜘蛛の巣』を基に、
セレブの心の深奥にひそむ闇を描くシャブロル後期の一本『甘い罠
シネフィルイマジカでは『ココアをありがとう』というタイトルで放映されています。
 
甘い罠 (2000) フランス
監督:クロード・シャブロル
出演:イザベル・ユペール/ジャック・デュトロン/アナ・ムグラリス/ロドルフ・ポリー
 
冒頭、美しい湖の風景に続いて登場するのは
チョコレート会社重役のミカ(イザベル・ユペール)と
ピアニスト、アンドレポランスキージャック・デュトロ)の意外に地味な結婚式のシーン。
この熟年カップル、実は若かりし頃に一度結婚していた仲だが、その後離婚。
アンドレはリスベットという女性と再婚しギョームという男の子をもうけたが、リスベットと死別。
それから8年、自然によりの戻ったミカと、正式に再婚するに至ったということを
出席者のゴシップから知ることになる。
 
このセレブ一家に絡んでくるのが、ある母子家庭の娘ジャンヌ(アナ・ムグラリス)。
ピアニストを目指す若き美貌のジャンヌは、ひょんなことからアンドレに接近していく。
ジャンヌとギョームは同じ産院で生まれており、その出生に秘密を持っていた。
ジャンヌの狙いは、高名なピアニスト、アンドレに近づき、ピアノを習うところにあったが
ミカにとっては、これが ちと煙たい。

だってユペールだもの。。
 
 
映画のオリジナルタイトルが『ココアをありがとう』であるように、
この映画には 何度もココアが登場します。
アンドレの家を訪れたジャンヌは、ミカがココアの入ったポットをわざと床に落とすという
不可思議な行動を目にし、「何故?」と、にわか探偵の嗅覚を働かせるのです。
そうなると、アンドレの前妻の事故死でさえも、あやしいものに思えてくる。
ジャンヌはギョームに「気をつけなさい」と警告
果たして惨劇は繰り返されるのか。。
 
今回も「犯人は誰だ」的な謎解きではないのね。
優雅なセレブでありながら、どこか不幸を漂わせるユペールが
幻影なる幸せを必死に守ろうとするお話。
原作小説のタイトルが『見えない蜘蛛の巣』というだけあって
音も立てずに、確実に獲物に近づき、息の根を止める
無表情な仮面の下に隠された静かな狂気が恐ろしい。
と同時に、あまりにストレートなミカが悲しくもあったのよねぇ。
 
ラストシーン、全てを失うであろうミカが 力なく崩れ落ちるソファーの柄が
あろうことか、蜘蛛の巣模様!?(笑)
ここにきて、蜘蛛の巣にがんじがらめになるのは、
他の誰でもない、ミカ自身なのだと知り、唸った次第。
 
劇中演奏されるピアノ曲が、リストの『葬送』なのも、シャブロルらしい仕掛けでしょうか。