しまんちゅシネマ

映画ノート

酔っぱらった馬の時間


 
カンヌ関連作品、今日は2000年にカメラドール賞と、国際批評家連盟賞の2冠に輝いた
イランの作品『酔っぱらった馬の時間』を。
過酷なクルド人の暮らしを、家族愛で綴る感動の作品です。
酔っぱらった馬の時間(2000) イラン/フランス
監督:バフマン・ゴバディ
出演:アヨブ・アハマディ/アーマネ・エクティアルディニ/マディ・エクティアルディニ
 
国家を持たない世界最大の少数民族クルド人を描いた作品は、いくつかあるけど
自身もクルド人という監督バフマン・ゴバディのリアリティは、まさに体験からくるもの。
 
本作はイラン・イラクの国境付近の山岳地帯に住む、クルド人5人兄弟のお話。
母親は末の妹を出産時に死亡、蜜輪業を営む父親を地雷でなくし、
12歳で家長となった少年アヨブは、生活費を稼ぐために必死で働く日々。
でもこの村ではアヨブのような子供はたくさんいるようで
コップを紙で包み箱詰めするアルバイトに子供たちは殺到。
子供たちの必死さに驚きます。
アヨブには難病の兄弟マディがいて、手術が必要。
アヨブは必死で働き、ついに、密輪のキャラバンに同行し、
手術を受けさせるためイラクに向かうことになるんですが・・・
 


密輪のキャラバンと言ってもピンとこないでしょうが、
彼らはタイヤを密輸することを生業としていて
ラバに大きなタイヤを背負わせて、雪深い山を越えるわけなんですね。
ラバが途中で凍えないように、お酒を飲ませている。
それがタイトルのゆえんです。
だけど、国境付近には銃をもった警備隊が待ち受けているし
無数の地雷が埋め込まれている。命がけのミッションです。

この映画ではまず、彼らの暮らしぶりの過酷さに衝撃を受けるわけですが、
難病の兄弟の命を守るため、必死に頑張る兄弟姉妹の姿に感動するんです。
手術を受けても、数ヶ月しか延命が望めないのは、みんな知っている
それでも危険に立ち向かう姿に、命の重さを感じるわけで
地雷や戦争で簡単に奪われる命と対比させてるんでしょうね。
 

映画の語り部もある、妹のアーマネが
難病の兄(・・といっても発育障害があるらしく、とても小さいです)に
何度も何度もキスをして、凍える手に息を吹きかけてあげる姿が可愛くてね。
勉強が大好きだけど、学校なんかには行けないのでしょう。
学習ドリルのようなものを兄にねだり、一生懸命勉強する姿も印象的でした。
 
世界には死の危険と隣り合わせに、
こんなに過酷な暮らしを強いられている子供たちがいるんですよね。
誰も現実を受け入れ、不平を言うでもない。
日々を懸命に暮らすだけ。
そこには、豊かな暮らしをする国民が忘れかけてる純粋さを感じました。

多くの人に観て欲しい作品です。