しまんちゅシネマ

映画ノート

善き人


オスカーを騒がせそうなイイ男 ヴィゴ・モーテンセン

フロントランナーではないんですが、ヴィゴにはクローネンバーグの新作『デンジャラス・メソッド』で
オスカーノミネートの期待がかってますね。
第一次世界大戦前夜を舞台にカール・ユングマイケル・ファスベンダー)とフロイトヴィゴ・モーテンセン)と
患者(キーラ・ナイトレイ)との精神分析にまつわる三角関係を描くというダークな心理ドラマらしいです。
むむ、難しそう(汗)
今日はヴィゴの作品から、ヴィゴがナチ党員となった大学教授を演じる『善き人』を観ました。
 
善き人(2008) イギリス
監督:ヴィセンテ・アモリン
出演:ヴィゴ・モーテンセンジェイソン・アイザックス/ジョディ・ウィッテカー/スティーヴン・マッキントッシュ
 
英国の劇作家C・P・テイラーの舞台劇『GOOD』の映画化で
ナチ政権下のドイツを舞台に、一人の大学教授の苦悩を描く作品です。
 
ヴィゴ演じるジョンは、半分ボケた母親を介護し、
妻に代わって子供の食事まで作る家庭人であり、熱心な大学教授。
戦争を共に戦ったユダヤ人モーリス(ジェイソン・アイザックス)の良き友でもあります。
ところが、彼の著書をヒトラーが気に入ったことから、
ジョンはナチ入党を余儀なくされ、次第に激化する反ユダヤの動きの中
彼は党員としての立場と友情との狭間で悩み、追い詰められることになるんですね。
 

20年ほど前には同じドイツ人として国のために戦った者同士が
片やSS、片やユダヤ人という相反する立場になってしまうという構図が恐ろしいです。
 
時代の流れとは言え、知識人が実感もないままにSSの指揮官にまで上り詰める。
ジョンのように、気づいたらホロコーストに加わっていたという人も多かったのでしょうか。
 
後半、ジョンが危険を犯し、モーリスの逃亡を助けようとするところが緊張をあおります。
最後の最後に、呆然とするジョンにかぶさる『GOOD』の文字が虚しいですね。
 

 
劇中 印象的に使われているのが、美しい旋律の音楽です。
あとで調べたらグスタフ・マーラーのシンフォニーからで、劇中3度ほど登場するんですが
その美しい歌声を耳にしたジョンは一度目は嬉しそうに一緒に歌うのですが
二度目はナチ党内で耳にし、つい口ずさんでしまうところを新妻に「何してるの?」と顔をしかめられます。
三度目はユダヤ人収容所で。ファンタジーとも言うべきシーンでしょう。
もはやジョンは口ずさむことはしません。ただ呆然と、自分が全てを失ったことに気づくんですね。
あの音楽は彼の中の「善き人」の象徴だったのかもしれません。
 
ただ、肝心なヴィゴの葛藤を描くところまでたどり着くのが長い。
それだけ、日々の生活にかまけ、ことの重大さから目を背けていたのかもですが
ヴィゴも、人物像を描き演じるのが難しかったかも。

 
監督のヴィセンテ・アモリンは本作が長編2本目とのことですが
次の作品『DIRTY HEARTS』では
伊原剛志常盤貴子日系人を演じ、高い評価を得てるみたいです。