しまんちゅシネマ

映画ノート

追悼:テオ・アンゲロプロス監督『霧の中の景色』


 
ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロス監督の訃報を受け
監督作品の中から、本作を観てみました。
アテネからドイツに幼い姉弟が父親探しの旅に出たという実話を元に
二人の幼い子供が父を探して国境を目指す姿を描くロードムービーです。
 
霧の中の景色(1988) ギリシャ・フランス
監督:テオ・アンゲロプロス
出演:ミカリス・ゼーナ/タニア・パライオログウ/ストラトス・ジョルジョグロウ/エヴァ・コタマニドゥ
    ヴァシリス・コロヴォス
 
12歳の姉ヴーラと5歳の弟アレクサンドロスは父親を知らない。
毎晩駅に足を運び、父の住むドイツ行きの列車を見送っていた二人は
ある日、ついに列車に飛び乗った。
 


国境を越えれば父に逢える
実は私生児であった二人には、そんなのは幻想に過ぎない。
姉は途中でそれを知ることになるのだけど、それでもなお旅を続け、
弟はけなげに姉についていく。
 
しんしんと雪の振る中、空を見上げ立ち尽くす人々
軍兵が国旗を降ろすのを見つめる通行人
そんな静の中で、姉妹だけが人の間を走り抜けたり、
結婚を陽気に祝う人々の群れの前で
姉弟だけが、死に行く馬を静かに見守っていたり・・
ファンタジーとも言える世界観に、早くも引き込まれると同時に
映画を観ていると、幼い二人の存在こそが幻想のようにみえてくる
姉弟は途中、旅芸人の送迎バスを運転する青年と出会います。
まもなく入隊すると言う彼、でも彼もまた世の中に取り残されたような青年
だからこそ、姉弟の発する哀しみを察知したのでしょう。
 

道に落ちていたフィルムの切れ端を拾い上げ、街燈にすかしてみながら
「霧の向こうに木がみえるだろう?」と青年
でも、弟君には何も見えない。
ところがこの言葉が、後にとてつもない感慨を呼ぶことになります。
 
いるはずのない父親を探す旅に、姉弟は何を求めていたのか 説明はない
ただ、そこまでするほどの孤独が痛いほどに伝わってくる。
 
旅の終わりに彼らが見るものは
夢に見たドイツなのか、それとも・・
 
はっきりとした答えを与えられてはいないけど
そこは姉弟の求めた世界だったのだろうな と
ここで、たまらず涙が溢れました。
 
メランコリックな音楽も心に沁みる、儚く美しい映画でした。
 
76歳でお亡くなりになった監督は、新作映画の撮影中だったとか
残念ですね。
監督のご冥福をお祈りします。