しまんちゅシネマ

映画ノート

『ヤコブへの手紙』人の心の美しさに胸打たれる

今日は第66回フィンランドアカデミー賞作品賞、監督賞など受賞した
一人の女性の心の成長を描く感動のヒューマンドラマ『ヤコブへの手紙』





ヤコブへの手紙
2009年(フィンランド
原題:
Postia Pappi Jaakobille
監督:クラウス・ハロ
出演:カーリナ・ハザード/ヘイッキ・ノウシアイネン/ユッカ・ケイノネン/エスコ・ロイネ


服役12年目にして突然恩赦を与えられた終身刑の女性レイラ。出所したものの身寄りのない彼女は、不本意ながらも所長に勧められた盲目のヤコブ牧師のもとで住み込みで働くことに。ヤコブ牧師のもとには毎日多くの相談の手紙が届けられていた。レイラの仕事は、その手紙を読み上げ、ヤコブ牧師の返事を代筆するというものだったが・・。

■感想
盲目のヤコブ牧師に寄せられる相談の手紙を読む仕事を与えられるものの
主人公レイラ(カーリナ・ハザード)の心はすさんでました。
相談者の手紙の内容に、祈りをささげるヤコブヘイッキ・ノウシアイネン)に
明らかに嫌悪の表情を見せるレイラは、彼を偽善者だと思ってるのでしょう。

ところが、ヤコブの慈しみの心、信仰心の深さに触れ
鬼瓦(失礼w)だったレイラの表情が、徐々にかわってきます。
毎日のお茶の時間のさりげないしぐさに心の変化を見せる手法もニクい。

けれど、ヤコブ自身も彼に寄せられる手紙によって
生きる力を与えられていたのだと知る後半
一人の盲目の老人の孤独に胸が締め付けられる思いでした。
主な登場人物は3人
ヤコブ牧師とレイラと、手紙を運ぶ郵便配達人です。

毎日「ヤッコブー!」と大きな声で手紙が来たことを知らせる郵便配達人
彼の自転車が新しくなったこと、夜にヤコブの家に侵入したことなど
さりげない謎を残すところは、レイラとヤコブの交流だけでは
綺麗ごとになりすぎたかもしれない物語にグレイゾーンを与えている。

人は善悪だけでは語れないものがある。
罪びとにもその背景になる理由が存在するし
善人にも裏の顔がある。そんなところも感じるところです。

ヤコブを演じたヘイッキ・ノウシアイネンさんの演技が素晴らしい
軽い喘鳴の混じった呼吸音に、彼の身体状況をさりげなく表現する
そんなことできる人いるのか?と驚くほどでした。
ヤコブの慈しみの心に触れ、レイラの頑なな心が溶けていく瞬間
言葉にならない感動に包まれ大泣きになりました。
75分というコンパクトな作りながら、贖罪、孤独を描きあげた本作
風景画のような映像も美しく、心に残る珠玉の一本です。