しまんちゅシネマ

映画ノート

砂の女











砂の女(1964)日本
監督:勅使河原宏
出演:岡田英次、三井弘次、岸田今日子、伊藤弘子、矢野宣、関口銀三、市原清彦



休日を利用し、砂丘に昆虫採集にやってきた教師の男(岡田英次)は、村人の案内で崖下のあばら家に一夜の宿を求める。男は家に一人暮らす女(岸田今日子)につましい接待を受け一夜を過ごす。ところが翌朝、家を出ようとする男は、崖にかけられた縄梯子が無くなっていることに気づき愕然とする・・

安部公房の原作を勅使河原宏が監督した作品で名作と聞きながら、初鑑賞でございます。
いや~、評判どおり、これ面白かった!

男が崖の下と思ったその家は、砂に囲まれた穴の中のようなもので、男は巨大なあり地獄に落ちた昆虫のごとく、抜け出すことが出来ないままに女と同居を余儀なくされます。
この村に住むには家を侵蝕する砂を掻き出さなければならない。
男には何故人がこんな土地に住み、無意味な労働をするのか理解不能
女をバカにし、何とか抜け出す術を模索します。
村の営みを卑下し、教師である自分を別格と位置づけていた男
けれど彼は女との暮らしの中に新しい価値観を見出していくんですよね。
男が趣味である昆虫採集の箱を女の内職のビーズ入れに提供する瞬間が転機のときかな。
どんな労働も、暮らしの糧となり意義を見出せれば価値あるものになるのだと気づかされます。




この映画で「砂」はいろんな役割を担いますね。
家を侵蝕し暮らしを脅かすものである一方で、女が生き人の関心を得るために必要だったり。
汗ばんだ身体に張り付く砂というのもなかなか官能的で、二人が互いの身体を拭きながら次第に身体を重ねるシーンのエロいこと。元祖不思議ちゃんな岸田今日子さんの恍惚の表情は異様な効果音とも相俟って少々ホラーでしたけど(笑)

「砂」と相反するところで「水」には希望を感じました。

脱出の様子を長回しで見せたり、砂の崩れるリアルな映像も圧巻。
村の陰謀に巻き込まれた男の不条理サスペンスとしても十分に楽しめますが、寓話的な作品を映像化した勅使河原監督の才能とこの時代の邦画のクオリティの高さに驚かされる作品でした。