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映画ノート

もうひとりの息子




もうひとりの息子(2012)フランス
原題:Le fils de l'Autre
監督:ロレーヌ・レヴィ
出演:エマニュエル・ドゥヴォスパスカル・エルベ、ジュール・シトリュク、 メディ・デビ、 カリファ・ナトゥー
日本公開:2013年秋
イスラエルに暮らすジョセフは、兵役用健康診査で両親の実子でないことが判明。
出生の際に、パレスチナ人の子供と取り違えられたことが明らかになった。

2012年の東京国際映画祭でサクラグランプリと優秀監督賞の2冠に輝いた作品です。
出生時の赤ん坊の取り違えというドラマは珍しくないですが、本作が特殊なのは彼らがパレスチナイスラエルの家族であること。
国同士が対立し合い、イスラム教徒とユダヤ教と宗教も異なることから、取り違えられた子供は勿論、互いの両親も戸惑うことになるんですね。
映画は、双方の家族のメンバーが、アイデンティティに揺れながらも家族として情を交わしていく様子を描きます。

まず興味深いのが、女性と男性の違い。
双方の家族が取り違えについて説明を受ける場面、女性は本当の息子の写真を見た瞬間に母の顔を覗かせ、別れ際には母親同士互いに手を取り合う。
そこに「長い間自分の息子を育ててくれてありがとう」という気持ちが見えるんですね。
自分のお腹を痛めた母親ならではの実子との繋がりの強さでしょう。
一方、男性陣はそうはいかない。
血の濃さの前に、それまで育てた息子と父親という関係が、新しい本当の息子を受け入れる障害になり、何よりも、敵対する国で育った我が子に対する違和感を拭いきれない。
複雑な両国間の関係が絶妙に反映され、どう折り合いをつけるのかと興味がつきませんでした。

そんな中、徐々に親子の絆を獲得する様子には、やはり血は水よりも濃いのだと思わせます。
お涙頂戴の感動ものにせず、彼らの関係の始まりを静かに描いている作品なので、劇的な結末を期待すると、やや物足りないと感じるかもしれません。

さり気ない台詞にパレスチナイスラエルそれぞれのお国事情が見て取れます。
経済格差や、人なつっこさ、宗教に対する思い入れなど
両国の違いなどこれまで考えたことのなかったので、凄く興味深かった。
また国同士がいかに敵対していても、人と人は分かり合えるのだという描き方に、平和への希望をも感じさせました。
揺れる気持ちを表現する際に流れる主題歌も美しく、良かったです。




トラックバック一覧

  1. 1. 「もうひとりの息子」は過酷な運命への結末は楽天的すぎるのか、リアルな希望なのか。

    • [今昔映画館(静岡・神奈川・東京)]
    • October 21, 2013 19:59
    • 今回は新作の「もうひとりの息子」をシネスイッチ銀座1で観てきました。フラットな場内にスクリーンが低い位置なので、前の人の座高があると画面が欠けちゃう難点があります。全席指定で、他の席へ移れないのですから、もっとスクリーンの位置を上げてほしいわあ。 テル