しまんちゅシネマ

映画ノート

Starting Out in the Evening(原題)




ビート文学、ヤングアダルト小説の映画化と小説がらみの記事が続いたので、
この機に「小説家が出てくる映画」を観ていこうと思います。
まずは日本未公開の地味な作品ながら、とてもよかった『Starting Out in the Evening』。
フランク・ランジェラが老齢の小説家を演じています。

Starting Out in the Evening(2007)アメリ
原題:Starting Out in the Evening
監督:アンドリュー・ワーグナー
出演:フランク・ランジェラ/ローレン・アンブローズ/リリ・テイラー/エイドリアン・レスター
日本公開:未公開

かつて小説家として4本の小説を出版し、その後大学教授をしていた70歳のレオナード(ランジェラ)の元に
へザー・ウルフ(ローレン・アンブローズ)という若い女性から取材の依頼が入る。
若きライター へザーは学士論文の題材に「知られざる名作家」としてレオナードについて書くことを希望しており、レオナードにインタビューでの協力を依頼してきたのだ。
一年前に心臓の手術を受け健康に不安のあるレオナードはこれを拒否するも、へザーの情熱と魅力に押されれ取材に応じる形となる。一方レオナードは40歳になる娘のアリエールがいまだ一人身であることを気にかけていた。



 ブライアン・モートンの小説を元に、共同脚本もつとめるアンドリュー・ワーグナーがメガホンをとりました。
小説家を描く作品をいくつか観ましたが、生みの苦しみを描くものが多いですね。
 
 本作でランジェラ演じる作家も、2本の傑作を世に出した後2本を執筆するものの、もはやどの作品も廃盤になり世間に忘れ去られています。今は10年以上も取り組んでいる作品を死ぬ前に書き上げたいと思っているが、それが出版されるあてもないという状況。
古めかしい家具に囲まれ、古いネクタイを締め、タイプライターに向かうレオナード。
おそらくは彼が書くことへの情熱を失った瞬間から、彼の周りは時を刻むことを忘れたのだろうと思わせる演出が見事。若いへザーの存在は、そんなレオナードの人生に変化をもたらします。
へザーはファン心理からレオナードが最後の作品を完成させることを望んでいる。
同時に彼女はライターとしてのエゴも持ち合わせていて、そのあたり『カポーティ』や『ミザリー』に通じるものがありました。



ランジェラと若きライターの物語と同じくらいの重みを持って描かれるのが、娘(リリ・テイラー)と元カレ(エイドリアン・レスター)との関係です。子供を持ちたいリリと持ちたくない元カレ。
正直に人生に向かい合うこの2人がとっても魅力的で、映画に優しさと温もりを与えています。

悪役が多かったフランク・ランジェラも、最近は老いぼれた役でも上手さを発揮し新境地ですね。
タイトルは、人生の終盤、あるいは絶望的な状況から一歩を踏み出し始めるレオナードや娘たちを言い表しているんでしょうね。
人生の光と影、失望と再生などを丁寧に描いた秀作でした。
日本でソフトにもなってないのは勿体ない。