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映画ノート

やさしい本泥棒




作家シリーズの最後に、おまけとして本に関係する作品を一本。
マークース・ズーサックのベストセラー『本泥棒』をブライアン・パーシヴァル監督した戦争ドラマです。
やさしい本泥棒(2013)アメリカ/ドイツ
原題:The Book Thief
監督:マークース・ズーサック
出演:ジェフリー・ラッシュ/ソフィー・ネリッセ/エミリー・ワトソン//
日本公開:6月
 
原作者のマークース・ズーサックは祖母から聴いた話を小説を書き上げたとのことで
本作はズーサックの祖母の体験を元にした実話です。



 ドイツで共産主義排除の波のさなかにある1938年、リーゼル(ソフィー・ネリッセ)は共産主義者の母親と逃亡生活を余儀なくされていた。途中、列車内で死んでしまった弟を埋葬したセレモニーのあと、リーゼルは墓守男が落とした本をそっと拾い上げ、懐に隠した。
もはや母親は子供を育てる気力さえ失い、リーゼルはヴェルリンの夫婦のもとに里子出されることになる・・・

ナチスドイツが台頭した時代を生きた主人公リーゼルの物語です。
リーゼルを演じるのは『ぼくたちのムッシュ・ラザール』でエメラルド色の瞳が印象的だったソフィー・ネリッセ。本作では暗い場面が多いせいか、瞳の色は際立たなかったものの、少し成長して可愛らしいです。

 逃亡生活にあったリーゼルは13歳なのに文字が読めません。
しかし彼女は文字を読むことを渇望していたんですね。やがて優しい里親であるハンス(ジェフリー・ラッシュ)とともに読むことを覚えるや、彼女は知らないことを教えてくれる本の世界に没頭することになる。
ところが、ナチスは民衆の自由な思想を奪い、ドイツへの忠誠を誓わせるために本を焼き尽くすんですね。




 素晴らしいのは里親を演じたジェフリー・ラッシュエミリー・ワトソン
飄々とした中に優しさとユーモアをにじませるラッシュと、いかにも頑固で怖そうだけど、
実は心の大きなエミリー・ワトソン、2人の演技が秀逸で、デコボコだけどあたたかい夫婦愛が微笑ましく
厳しい時代にあって、危険を冒しても人を救ったり皆が空爆の恐怖におののくなかで
アコーディオンを演奏したり、彼らの強さに培われた優しさが最高です。




リーゼルと隣の男の子の淡い恋も可愛らしいんですよね。

勿論戦争映画でもあり、それに伴う悲劇やユダヤ人絡みのスリルなども描かれるのですが
語り部語り部なのもあってかw 悲劇を強調しすぎることなく、
一つの人生として、達観した描き方になっているのが面白い味わいです。

 不幸な時代にあっても、強く優しい両親に育てられたことは幸せだったでしょう。
誰も永遠に生き続けることは出来ない。
けれど誰かの役にたったり助けたり、誰かを愛したり愛されたり、
死ぬ瞬間に精一杯生きたと思える人生を過ごせたらいいな。

 本を読むことを諦めなかったリーゼルが、その経験を語り継ぎ
やがて本として綴られることで新たな学びや愛が生まれる。
学べる環境にありながら、本を読むことから遠ざかっている私をはじめ、
多くの人が「本を読みたい!」と思うかもです。

ベテラン ジョン・ウィリアムズの手がけた音楽も美しい心に残る素敵な作品です。