しまんちゅシネマ

映画ノート

ミケランジェロ・アントニオーニ『夜』

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【作品情報】
(1961)イタリア/フランス
原題:La Notte

【感想】
ミケランジェロ・アントニオーニ「愛の不毛三部作」の一遍。
ミラノに暮らすセレブな作家夫婦をマルチェロ・マストロヤンニジャンヌ・モローが演じ、病床の友人を見舞ったある一昼夜を描くことで、二人の愛の不毛をあぶりだすという作品です。

結婚して10年。子供のない夫婦。
モロー演じるリディアは、夫の愛がもはや自分にないことを感じています。
作家を生業とするものは、平凡な毎日に刺激を感じないのか、「虚実」を描くことへの後ろめたさなのか、あるいは裕福な妻に生活を支えられていることへの負い目なのか、ジョバンニはリディアに触れたり愛をささやくことをあまりしないのです。
それはリディアも同じで、夫が少し頭のおかしそうな入院患者の女性に部屋に引き入れられ
衝動的にみだらな行為に及びかけたことを告白しても気のない反応を見せるだけ。

しかし、そのときを境に2人の中で何かがざわめき始めるわけです。

街中を一人さ迷い歩く妻
道すがら遭遇する若者の喧嘩、手作りロケットの発射のような風景は彼女の日常とはかけ離れたものだったでしょう。しかしそんな活気溢れる光景は、次第に荒廃したものへと変わっていく。
彼女が目にするもの-泣き叫ぶ子供、止まった時計-などは彼女の心を象徴したもののように思えてきます。

長い散歩を終えたリディアはバスタブに漬かりながら、夫婦の危機を噛み締めるのです。
湯船からスポンジを求めても、夫は欲情することもない。
新しいドレスに気づいた夫に一瞬頬を緩ませるものの、次に続くべき「綺麗だよ」の言葉を聞けずに、やがて顔を曇らせるリディアが痛々しい。

そのあと夫婦は富豪のパーティに出かけ、あろうことか夫は富豪の娘、若く奔放なモニカ・ヴィッティを追うのです。
庭で見た彫像を一晩中見つめ続ける猫の後姿に、リディアが自分の姿を重ねたのは言うまでもないでしょう。
猫は彫像が動き出さないかと待っている。
リディアもまた、夫が昔のように情熱を取り戻し、自分のもとに戻ることを待っているのです。
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小物や壁で二人の虚無感を演出しつつ、いつのまにかすれ違ってしまった夫婦の10年を一昼夜の出来事で見せるアントニオーニの手腕が光る一本でした。

ところで・・
「愛の不毛三部作」のひとつということで、どんよりと終わるものと思っていたら
あれれ?なんだこれ。

結局は「犬も食わない」じゃないですか。
最後は公園を歩く2人の姿に思いがけず幸せな気持ちにさえなって
あと戻りできる「愛の不毛」があることにホッとした次第。

ジャジーなサントラもカッコいい名品でした。

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