しまんちゅシネマ

映画ノート

『バタフライはフリー』自由ってなんだ

butterfly.jpg

バタフライはフリー(1972)

ゴールディ・ホーン主演。人気の舞台劇の映画化だそうで、殆どがアパート内での会話劇にも関わらず心を動かされる秀作でした。

ホーン演じるジルは安アパートに越してきたばかりの女優の卵。背中のジッパーをあげてもらいに隣室のドン(エドワード・アルバートを訪ね、まもなくドンが全盲であることを知りますがそれでも二人は意気投合。
butterflies.png
若きゴールディ・ホーンはびっくりするほどかわいらしい。
殆どのシーンで白いブラにおパンツ姿というサービスぶりに、てっきりプロモーションビデオ的に彼女の若さを堪能する映画かと思ったが、どうやらそれだけではない。

ヒッピー上がりのジルのモットーは自由であること。
下着姿でうろうろするのは自由の象徴でもあるのでしょう。

一方、盲目ながら身の回りを整え、服もきちんと着こなすドンはジルとは対照的に描かれてます。
目の見えないドンだから、彼は下着姿のジルに惹かれるのではない。おそらく彼はジルの奔放さに惹かれたのでしょう。ドンが盲目であることを忘れて何度も「見て見て!」と言ってしまうジルが、彼を正常者のように接しているのが心地よいのかもしれない。

急速に親しくなり、ベッドインまでしてしまう二人。
しかしドンの母親(アイリーン・ヘッカート)の登場により、状況は一変。
5404.jpg
母は下着姿のジルを質問攻めにし、ドンにも家に戻るよう言い渡します。
老いていく身である母は、いつか息子を遺して逝かねばならないことをわかっているから、息子の一人立ちを応援したい。
それでもドンに悪い虫がついてやがて振られ傷つくのをみていられない。そうした母親の気持ちはわかります。

普段は室内を完全に把握しているドンだけど、興奮していてはそれもうまくいかない。
ドアにぶつかるドンを悲しい目でみつめる母。
「母さん、僕のことを心配しないで」
ずれた方向に差し伸べられたドンの手を、思わず引き寄せ自分の頬に当てるシーンに子を思う母の心情が凝集されていて、切なさに涙がこぼれてしまった。この役でアカデミー賞助演女優賞受賞した母親役のアイリーンがとにかくいいんです。

25645.jpg
タイトルの「バタフライはフリー」はドンの歌う歌詞にも登場します。
バタフライが複数になっているところを見ると、バタフライは自由を身上とするジルはもちろん、ドンのことも表しているんでしょう。
では彼らにとっての自由とは何か。

製作年が1972年ということを考えると、本作はヒッピームーブメントの終わりを示唆する映画だと思います。
一度はドンの元から去ろうと決心したジルだけど、最後に彼女は帰ってくる。
難しいことから逃げる自由を選択するのでなく、困難に立ち向かうために。
ドンもまた母の元に戻らず、一人暮らしの挑戦をすることを決意する。

自由とは、そうして挑戦したあとに得られる力や可能性や、夢を表す言葉なのかなと思う。
本当の自由を得るためにスタートラインにつく二人が清々しかった。


映画データ
原題:Butteflies are Free
製作国:アメリ
監督:ミルトン・カトセラス
脚本:レナード・ガーシュ
出演:ゴールディ・ホーンエドワード・アルバート、アイリーン・ヘッカート他
受賞:アイリーン・ヘッカートがアカデミー最優秀助演女優賞