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映画ノート

【映画】追憶の森

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追憶の森
(2015 アメリ
原題:The Sea of Trees
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本:クリス・スパーリング
出演:マシュー・マコノヒー渡辺謙ナオミ・ワッツ

【あらすじ】
アメリカ人男性のアーサーは、死に場所を求めて富士山麓青木ヶ原樹海を訪れる。睡眠薬を飲みかけたところで一人の日本人男性と出会う。自殺しようとして思いとどまり、森をさまよっていたらしいタクミと名乗るその男を助け、森からの脱出を図ろうとするアーサーだが・・・


【感想】
ミステリー祭り3本目
『グッド・ウィル・ハンティング』のガス・ヴァン・サント監督による樹海を舞台にしたドラマです。

JUKAI-樹海‐』も青木ヶ原を舞台にしたホラーだったけど、今年は樹海ばやり?
さて、本作はカンヌでブーイングが起きたという前評判がたたってか、本国アメリカでは数館で公開されたのみ。
ようやくDVDになったので観ました。
でもこれそんなにダメ? 多分死生観とか宗教観が違うんだよなぁ。

今回ミステリー特集で取り上げたのは、ある部分がとてもミステリアスだから。
そこに触れずに書くのは難しいので、今日はネタバレ記事となります。

以下未見の方はご注意ください。


 マコノヒー演じるアーサーが樹海にやってきたのは、妻(ナオミ・ワッツ)を亡くした絶望感からでした。
しかし目の前に現れたタクミ(渡辺謙)によって自殺は中断され、死を決意していたはずのアーサーは、タクミを樹海の外に出してあげるために懸命に道を探し始めます。
自分の着ていたコートもタクミにあげ、生への執着などなかったアーサーが、首吊り死体から上着をはぎとり、白骨化した死体のポケットにあったライターで暖をとりながらサバイバルする。火を見つめる彼の眼には、生への渇望が生まれているように見えます。
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結局アーサーはレスキュー隊に救出されます。タクミが目の前に現れなければアーサーは確実に死んでいただろうことを思うと、彼はタクミに救われた形です。そして私たちはそれが偶然ではなかったと知ることになるんですね。

タクミはどうやら、すでにこの世にはいない存在だった。
そしてジョーンの魂がタクミを通しアーサーを救ったのだということが分かってきます。
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見返してみるとね、アーサーが妻ジョーンとの結婚は問題だらけだったこと、互いに謝ることなくジョーンが死んでしまったことをタクミに明かすシーンは、とても巧妙に作られてます。
アーサーが胸の内を明かすとタクミは「I'm sorry」と言う。するとアーサーは泣きながら「I'm sorry」を繰り返すんですが
思うにこのタクミの中にはジョーンが入っていたと思うんです。タクミの言う「I'm sorry」も、普通に「それはお気の毒です」という風にとらえることは可能だけど、ジョーンが私こそ「ごめんさい」と言ったと考えることも出きるわけですよ。
日本語に訳してしまうと、このWミーニング的な絶妙な意味合いが失われてしまうんですが。

終盤タクミが「ここ(樹海)は、「pargatory」だ」と言うシーンがあります。日本版でどう訳してましたか?
知らない言葉だったので調べたら「煉獄」という難しい言葉が出てきて、さらに調べなければいけなかったんですが、どうやら死んだ者が天国に行くまでの過程で、苦行をもって徳を積むといった宗教上の言葉みたいですね。

タクミという存在は、ジョーンが生み出したものと考えることもできるけれど、「煉獄」ということを考えると、タクミは森で自殺を図り、思いとどまるも森を抜け出せず無念のうちに死んだ人なんでしょう。タクミの言葉がことごとくジョーンの言葉にマッチしていたことを思うと、ジョーンがタクミの身体を使ったのも確かで、タクミとジョーンそれぞれの魂が、アーサーを死から救ったのだと思います。よく見ると謙さんは時にタクミの中のジョーンを演じてますね。

まぁ、そんなこんなで、ものすごくスピリチュアルな話になっていくので、魂の存在など信じない人には突拍子もない映画となるのかもしれませんね。「黄色」と「冬」の下りは少々作り込みな気がしました。



余談ですが、植物を国外からアメリカには持ち込めないよね。