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映画ノート

【映画】『マーシュランド』ネタバレでラストシーンの解釈を追加しました

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 マーシュランド(2014)スペイン
原題:Marshland
監督:アルベルト・ロドリゲス
脚本:ラファエル・コボス/アルベルト・ロドリゲス
出演:ラウール・アレバロ/ハビエル・グティエレス/アントニオ・デ・ラ・トーレ

【あらすじ】
1980年、スペインのアンダルシア。湿地帯にある小さな町で、10代の姉妹の行方がわからなくなる。やがて姉妹は拷問を加えられた果てに殺され死体となって発見された。ベテラン刑事のフアン(ハビエル・グティエレス)とペドロ(ラウール・アレバロ)は、これまでにも似た事件が起きていたことを知る。


ミステリー祭り5本目

スペインのアカデミー賞にあたるゴヤ賞で10部門を受賞した本作は
フランコ死去から5年のスペイン、アンダルシア地方を舞台に、連続少女殺人事件の真相を追う本格ミステリーです。

この映画まず面白いのが、その複雑さですね。
早々に犯人と思しき人物が浮上するものの、被害者のストッキングに付着した精液と血液型が一致しないなど、捜査は混乱を極めます。複数の被害者それぞれに関わる参考人から様々な情報を得て、新たな容疑者を特定していくという緻密な捜査を展開し、全てを105分に収めるというのは凄いこと。それだけ無駄がないわけですが、ぼんやり見ていると置いていかれること必至。人の顔も覚え、情報提供者の言葉一つ一つを聞き逃さないようにしないといけないのでトランプの神経衰弱みたいに記憶力と集中力を試されますね。
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まぁ複雑な割に捜査が早いのは、ベテラン刑事フアンの暴力的な尋問によるところが大きいんですけどねw
容疑者だろうと参考人だろうと女だって殴って脅して本音を吐かせる。でもこれも実はあることの伏線でした。
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息抜きになるのは協力者の存在。彼らは貧しいゆえ情報を提供するのに見返りを求めてくるんですが、それでも報酬の分はしっかり協力する律義さがあって、一風変わったバディものの趣で楽しめます。



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監督のアルベルト・ロドリゲスは、マーシュランドを撮影した写真家アティン・アヤの写真展でその美しさに感銘し、マーシュランドを舞台にした映画を作ろうと思ったんだそうです。
この美しい風景にふさわしい映画をと考えたとき、監督の頭に浮かんだのがフランコ政権からの移行を描くことだったのだとか。事件の背景にある権力や暴力、組織との癒着といった部分がフランコ政権のメタファーであり、それは亡霊のように新しい世代にも受け継がれていくといった不気味さを湛えている。
最後にみんな引き寄せられるように入っていくマーシュランドこそが、映画の主人公でした。


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ペドロを演じた役者さんはショーン・ペンに似てました。
ペドロはフアンのよからぬ噂を聞いていて、はじめは反発してましたが、次第にフアンの実力も認め始める。
それでもどうしても受け入れられない部分が二人の関係を複雑にします。

映画の中で霊能者がフアンに「死者があなたを待ってる。もうすぐその時がくる」と言うのも印象的。
いつ危険が迫るのかとハラハラさせられましたから。

フアンを待っている死者とは、おそらくは過去に関わった人たちなのでしょう。
フアンは排尿時に血尿が見られ、時々苦痛に顔をゆがめ薬を服用してました。そのことになんの説明もなかったけれど、彼はがんだったのかもしれませんね。自分の業はフアン自身が一番わかってるんじゃないかな。
それでも一度染み付いた習癖は簡単には消えない。

とはいえ、巷で言われているフアン犯人説には反対です。

≪追記≫
記事を書き上げたあと、Filmarksのレビューを見てみると多くの人が「犯人」と「ラストシーンの意味」について考えあぐねているようです。そこで自分なりの考えをネタバレで書いておくことにしました。

未見の方はご注意ください。
興味のない方はスルーでお願いします。








まず犯人ですが、姉妹が下着姿で写る写真からの情報で
イケメン青年キニがそこにいたことは確実です(手の刺青で確認)
そしてもう一人、カメラのフラッシュで顔の見えない人物が鏡に映っていて、これが誰かという問題になります。

その人物と同じ時計をしているということで、これがフアンだと思う人が多いんですね。

でもそれはないでしょー。
だってフアンは懸命に捜査してきたじゃないですか。

第一この人物は写真を撮影している当人でもあります。
ジャーナリストの話によると、使われているフィルムは高級かつ珍しいもので
これを買える人物を一人知っているというくらいなので、それ相応のお金持ちだと思われます。

そこで浮上するのが町の有力者コラレスの存在。
フアンは労働者を雇用する集会で氏を発見。近づき握手を交わします。
①高級コロンの香りのする柔らかい手をした男
②帽子の男の後ろ姿と激似
③金持ち
などの条件が一致する氏が写真に写りこんだ男とする方が自然でしょう。
握手する際に時計も強調されていました。

もう一人、犯人として浮上したのが小児愛者のセバスチャンです。
犯行はキニ、セバスチャン、コラレスの三人によって行われていたのです。
しかし、セバスチャンはフアンらをマーシュランドで襲撃してきたため、フアンがめった刺しにして殺してしまう。

さて、ここで映画は一気にラストになだれ込みます。
事件はキニの犯行として報道され、事件を解決に導いたペドロは妻子の待つマドリードに栄転するのです。

氏は? セバスチャンのことはどうなったの?


ここから私の勝手な妄想ですが
思うに、フアンは氏とフランコ政権下で同じ秘密警察で働いていたのではないか
フアンが犯したという100人の少女虐殺も、氏の指揮のもとに行われてきたのではないかと思うのです。
氏はすでに80を超えてはいるものの、小児性愛の性癖は変わらず、今は写真を撮ることで欲求を満たしている。

フアンは今では自分の過去を悔い虐殺を憎んでいて、セバスチャンをめった刺しにしたのも、犯行を憎み、また彼に自身を重ねたからかなと。あと、コラレスになんらかの恩義を感じていて、(おそらく今の仕事に転身する手助けをした)氏の犯行は隠ぺいしたい。セバスチャンからコラレスのことが出てくることを恐れ、口封じのため殺したとも考えられます。

問題の「時計」については、もしも二人が同じ時計をしているのだとすれば、それはフランコの時代に「贈り物」のような形で受け取ったものかもしれませんね。




とにかくこの映画はやたら、見返りと報酬が描かれます。
町の警察とフアンがコラレスの関与を隠ぺいし、セバスチャンの存在自体を消し去った。ペドロはその事実を自分の胸の内に収めることで栄転を手にした。つまり取引したのでしょう。
あるいはフアンはコラレスとは関係がなく、町がコラレスの関与を隠ぺいし、フアンのセバスチャン殺害の隠ぺいとペドロの栄転とで取引したのかもしれません。
いづれにしても正義感が強いあまり田舎に左遷されていたペドロが、最後には正義を捨てることでマドリードに戻ることになるわけで、やるせないことです。それがフランコの亡霊の置き土産ってことかな。

ちなみに、映画の中には一人少女の幽霊が出てきましたね。と思ったけど違う?

というわけで、自分勝手な推理を並べたてました。
駄文にお付き合いいただきありがとうございました。