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映画ノート

マックィーン『ハイウェイ』

 
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ハイウェイ(1964)


≪あらすじ≫
テキサスの小さな町にジョージェット(リー・レミック)が娘のマーガレット(キンバリー・ブロック)をつれてやってきた。仮出所する夫ヘンリー(スティーヴ・マックィーン)をむかえにきたのだ。


 マックィーン演じる仮出所中の若者ヘンリーが初めて見るわが子と妻を迎え新しい生活を始めるが、やがて再び傷害事件を起こし、家族は離れ離れになる。

 なんともやるせない人間ドラマだ。
生産性のない陰鬱な映画と云う評価が付きまとうのもわからないではない。

 ちょっとのことでキレてナイフを振りかざすヘンリーはどうしようもない男で、マックィーンは彼史上最も嫌われキャラかもしれない。しかしヘンリーが何故そんな人間になったのかと考えるとき、この映画はエポック的な意味を持つことになる。

 ヘンリーが暴力の衝動にかられてしまうのは、幼い頃に親に捨てられ、引き取られた後継人のミス・ケイトに虐待を受け育ったことに起因する。わが子を愛しいと思い、妻と穏やかに暮らしたいと願っている。自分の家族に手を上げることはないが、自らの暴力が家族の夢をぶち壊す。虐待を受けた人間は、内から湧き上がる暴力性に抗うのが難しいという、やるせない現実がそこにあった。
60年代という早い時期にこの真理に迫ったところに、監督ロバート・マリガンの人間観察の鋭さを感じる。

 序盤、ベッド上で電話をかけるミス・ケイトの姿を一瞬見せはするが、全貌があらわになるのは死をまじかに控えた彼女をヘンリーが一人見舞う終盤のみ。彼女は死の床にあってなお、ヘンリーを否定し、悪態をつくのだ。
ダークな恐怖の対象を最後の最後まで見せない手法は、『レッド・ムーン』のインディアンの見せ方に通じる。
ミス・ケイトの玄関前の、枯れ枝がうっそうとした感じは、その家がホラーの根源であることを表していかのごとし。

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 妻ジョージェットを演じたリー・レミックは、娘に平凡な幸せを与えたい母親を好演している。
母子を見守る保安官スリムはおそらくジョージェットに恋心を抱いているのだが、その思いを表に出すことはない。
 ラストシーン、護送されるヘンリーの車とジョージェット母娘を乗せたスリムの車がハイウェイのインターセクションですれ違う。かねてから、スリムにはいい女性と出会って幸せになって欲しいと言っていたヘンリー。
庭に植えられたミルクが届けた苗木と、明らかにお似合いのミルクとジョージェットの姿に、未来へのかすかな希望を垣間見た気がして少しホッとする。

吹き替えだと思うが、なぜかマックィーンの歌に惹かれないのは、歌ってる本人が楽しそうじゃなかったから。


映画データ
原題:Baby The Rain Must Fall
製作国:アメリ
監督:ロバート・マリガン
脚本:ホートン・フート
出演:スティーブ・マックィーンHenry_Thomas
   リー・レミックGeorgette_Thomas
   ドン・マレーSlim
   キンバリー・ブロックMargaret_Rose_Thomas
   ジョセフィン・ハッチンソンMrs.Ewing