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映画ノート

【映画】彷徨える河

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 彷徨える河(2015 コロンビア/ベネズエラ/アルゼンチン
原題:El abrazo de la serpiente
監督:シーロ・ゲーラ
脚本:シーロ・ゲーラ/ジャック・トゥールモンド
出演:ヤン・ベイブート /ブリオン・デイヴィス/アントニオ・ボリバル・サルバドール/ニルビオ・トーレス/ミゲル・ディオニシオ・ラモス
【あらすじ】
部族最後の生き残りである呪術者カラマカテは、アマゾンの奥地でひっそりと暮らしている。数十年にわたって他者との接触を拒んできたカラマカテは、孤独のあまりすっかり記憶や感情を失っていた。そんな彼の前に、聖なる樹木ヤクルナの調査に来たアメリカ人の植物学者エバンが現われる。エバンと共にカヌーでアマゾン深部へ漕ぎ出したカラマカテは、少しずつ記憶を取り戻していく。

【感想】
昨年のアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたコロンビア映画です。
einhornさんが紹介されていたので気になって観てみました。

監督のシーロ・ゲーラは世界で注目を集める俊英らしいのですが、私は初めてその名前を知りました。
コロンビア人である監督自身も、殆ど知らないというアマゾンの奥地。
映画は、ヤクルナという聖なる薬草を求める2人の西洋人学者がアマゾンの先住民のシャーマン、カラマカテと出会い、カラマカテの道案内でヤクルナを探すロードムービーの趣です。


明確な時代を提示してはないものの、2人目の学者エバンとの出会いは第二次世界大戦中であるらしく、カラマカテが初老の風貌に変わっていることから計算すると、最初のテオとの出会いから30年から40年は経っていそう。
(実在した学者の日記からインスパイアされた作品とのことで、時代はのちに1909年と1940年代であると知りました。)
その異なった時代の出来事であるにも関わらず、話は二つの時代を交錯し、時間の隔たりを感じさせないのが面白い構成です。
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ヤクルナを探す旅を通して見えてくるのが、白人に迫害されたアマゾンの歴史。
白人の入植者たちは先住民を奴隷のように使ってゴムを採取させ、得体のしれない宗教をもたらし、先住民を洗脳しています。でも映画としては、白人による迫害の歴史に重点を置くのではなく、変化し失われていく昔からの知恵や教え、さらには自然の力にフォーカスしてるのかなという気がします。

コンパスを使えば、もう方角を知るのに星の位置を見る必要もなくなる。特殊な知識は便利なものの出現でどんどん不要のものとなっていきます。豊かさは欲や争いを生み、銃は人の命を奪い、岩や自然と対話し人を自然の力で癒してきたシャーマンは存在価値をなくしてしまう。
カラマカテの悲しみが伝わるのですよ。
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それでも失われ行く悲しみばかりを描く映画ではありません。
途中、村で歓迎を受けながらテオとマンドゥカがひょうきんな歌とダンスを披露し村人の笑いをとるシーンもあり、先住民の無邪気な笑顔も印象的です。(ちなみにテオ役の役者はどっこかで見たと思ったら『ボーグマン』!)

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大きな自然の中で少しずつ動いていく歴史を目撃する感覚かな。

モノクロの映像も美しい一本です。



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