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映画ノート

【映画】ウインド・リバー


ウインド・リバー
Wind River
 
【あらすじ】
ネイティブアメリカン居留地ウィンド・リバーでゲームハンターという仕事に従事するコーリーは、ハンティング中の雪原で若いネイティブアメリカンの死体を発見。ラスベガスからFBIの捜査官ジェーンが派遣され、コーリーも捜査に協力することになる。

『ボーダーライン』『最後の追跡』の脚本で脚光を浴びたテイラー・シェリダンが、脚本と初監督を務めたクライム・ミステリーです。

監督のシェリダンは売れない俳優時代、将来の道を探るために数年をネイティブアメリカン居留地で過ごした経験を持ち、その地に横行する差別も目のあたりにしてきたそうです。居留地で少女の死体が発見されるという本作のプロットも、そこで実際に聞いた話をもとにしているとのこと。
彼は自らメガホンを取ることを決めた経緯を「語るべきすべてを形にするため」と説明しています。執念みたいなものを感じますね。
その執念が見事に投影されているのが、ジェレミー・レナー演じる主人公のコーリー。ショットガンを背中にしょった姿はホークアイを思い出します(笑)
彼は哀しい過去を持ちながらも諦観の中に生きてきた男。でも事件を機に彼の中で何かが弾けるんですね。
 
犯人を突き止める捜査ものとしては非常にシンプルです。しかし単なる犯人探しのミステリーに終わらないのがシェリダンらしいところ。事件の解明が進むにつれ、ネイティブアメリカンの社会の深い闇が見え始め、やがて思いもよらない結末を迎える瞬間、様々な感情を呼び起こされるのですよ。
本来なら事件を牽引すべきFBIエージェントを若い女エージェントと設定し、自然にコーリーに主導権を握らせているのもストーリーの転がし方として巧いところ。気は強いが雪原に来るのに防寒具も持たずやってくるし、人の気持ちも解さないとーしろーなジェーンに最初は呆れてしまうのだけど、彼女は単に経験が浅いだけだと分かってくるし、ひるまず頑張る姿には応援したくなる。
安易なロマンスを持ち込むことなく、コーリーとジェーンのバディ関係を描いているところも、ドライな作風に合っていていい。
 
フロンティアの時代に土地を追われ、限られた居留地に押し込められたインディアンは、時代が変わっても土地の呪縛から逃れることができずにいる。映画は私たちの知らない居留地の今を教えてくれます。貧困や犯罪というキーワードが付きまとうシェリダンの脚本の原点がここにあったのかとも思わされますね。
 
雪原をスノーモービルで進む様子に時間をかけ、その地の自然の厳しさや閉鎖性を嫌というほど感じさせる。そうした演出が言葉で説明する以上に映画に奥行きを出してくれているから低予算を感じさせず面白いんですね。
本来映画はこうあるべき。初監督にしてこれは見事。
 
 
シェリダンはカンヌで監督賞を受賞
ジェレミー・レナーと殺されたナタリーの父親マーティンを演じたギル・バーニンガムの2人がとってもよかった。


映画データ
製作年:2017年
製作国:アメリ
監督/脚本:テイラー・シェリダン
出演:ジェレミー・レナー
   エリザベス・オルセン
   ギル・バーニンガム