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映画ノート

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』はヨルゴス版ギリシャ悲劇


聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
The Killing of a Sacred Deer

心臓外科医のスティーヴン(コリン・ファレル)は美しい妻(ニコール・キッドマン)と2人の子供たちとともに郊外の豪邸に暮らしている。彼は時々マーティン(バリー・キオガン)という名の16歳の少年と会っているが、マーティンの存在によりスティーヴンの一家に不穏な影が忍び寄る・・
籠の中の乙女』『ロブスター』の奇才、ギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスの新作です。
IMDbのユーザーレビューでも10点満点中1の最低評価がズラリと並ぶ本作
ファンタジーな要素が入ってくるし、不条理極まりないサイコロジカル・ホラーな仕上がりのため
一般受けしないことは確かでしょう。
最初私も、抑揚のない言葉のやり取りや、マーティンが画面に現れると必ずかかるホラーテイストの音楽に笑いそうになるくらいだったのだけど、マーティンとスティーヴンの関係が明かされるあたりから俄然惹きこまれました。
意味不明だったマーティンのある言葉が現実になっていくことに緊張を禁じ得ないのですよ。
鑑賞後に知ったことだけど、本作は『アウリスとイピゲネイア』というギリシャ悲劇を基にしてるとのこと。
原題の「sacred」というのは「聖なる」と訳されてますが「生贄」という意味もあります。
予言した悲劇が起きるシーンを非常に高いところからとらえるカメラワークは「神の視線」のごとし。
印象的なのはスティーブン演じるコリン・ファレルが劇中「手が美しい」と何度も褒められること。
しかしその美しい手をじっくり映し出すわけではなく、
逆に冒頭などは、手術後の血のついたゴム手袋を脱ぐシーンで始まるのですよ。
劇中、彼が息子に語る自身の過去のエピソードからも、むしろ彼の手は汚れていると示唆してるのでしょう。
妻役のニコールが情報を得ることの引き換えに、やはり手を使ったあることをする。
(ニコールさまが!!)
手は時に欲望の権化と化すのだということでしょうか。
マーティンを演じるのは『ダンケルク』のバリー・ケオガン。
一見人当たりのいいマーティンの言動が次第に異様なものへとシフトしていくのが不気味でした。
怪作です。


映画データ
製作年:2017年
製作国:イギリス・アイルランド
監督:ヨルゴス・ランティモス
脚本:ヨルゴス・ランティモス/エフティミス・フィリップ
出演:コリン・ファレル
   ニコール・キッドマン
   バリー・コーガン