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映画ノート

【映画】招かれざる客

白人と黒人の異人種間結婚問題に揺れる家族を描く
スタンリー・クレイマー監督による社会派ファミリードラマの傑作です。

招かれざる客(1967)
Guess Who's Coming to Dinner

 

【あらすじと感想】
リベラルな両親に育てられたジョーイは黒人医師ジョンを伴いサンフランシスコの空港に降り立つ。ハワイで知り合い恋に落ちたジョンを両親に紹介するためだ。

「僕が黒人だと親御さんは知ってるの?君が先に様子をうかがったほうがよくないか?」心配するジョンに、「23年も彼らのことを知ってるの。大丈夫よ」とジョーイ。
時代は公民権運動たけなわの1962年。果たして両親の反応は?

冒頭、空港内を肩を並べ歩く2人の幸せそうなこと。
ホンワカ音楽も相まって、美しい二人をずっと観ていたい気になります。
シドニー・ポワチエ好き~!

こんな素敵なポワチエが人種差別に合う話なんだな と思っていたらちょっと違いました。
むしろ痛めつけられるのは両親の方。
ジョーイの父マットは新聞社を経営し、差別に寛容な立場をとってきたインテリ組だけれど、娘が連れてきた黒人の婚約者を前に、思わぬ本音が首をもたげることに。
黒人と結婚して娘は幸せになれるのか?生まれてくる子供は?

映画は本音と建前の狭間で揺れる父親スペンサー・トレイシーはじめ、娘の幸せを信じ結婚支持に傾きつつも、夫の心情も理解できる母キャサリーン・へプバーン他、登場人物それぞれの葛藤を丁寧に描いていきます。
キング牧師がワシントンで「I Have a Dream」の演説を行ったのが1963年、州によっては異人種間結婚は法律で罰せらせれる、1962年ってそんな時代。
世代によって、人種によっても考えはまちまち。過渡期を象徴する役割分担が絶妙です。

中でも興味深いのは同じ黒人なのに、ジョンを警戒し排除しようとするメイドのティリーの立ち位置。
長い間白人宅に雇われているプライドみたいなものが働くのか、はたまた黒人の苦労を知ってるからこそなのか「黒人男に大事なお嬢さんを嫁がせるわけにいくものか」といった気概が見て取れるのが面白い。

設定的にどうよと思うところもありますね。
ジョンが次の赴任地へ向かうタイムリミットを設け「一晩で婿と認めるかどうか返事をしろ」という無茶ぶり。
もう少し考える時間をあげようよとは思うものの、映画的にはどんな結末にたどり着くのか、時間内に収まるのかとスリルがあって面白い。

一方、ジョンが父親に強い口調で反抗するところは好きになれません。
ヘプバーン演じる母親がギャラリーの仕事仲間をクビにするところも今ならパワハラじゃなかろうか。
「(娘は)父親に似て残酷なところがあるから気をつけて」とジョンに警告するのは
母親に似たんだろと笑えるし、ユーモアが効いてていいのだけどね。

でもこの映画の素晴らしいのは、ピュアな家族ドラマに完結させているところ。
スペンサー・トレイシーの最後の語りは、プライベートでもパートナーだったキャサリン・ヘプバーンへの愛をそのまま伝えているようでウルっとくる。
収録のわずか17日後に亡くなって、本作が遺作となったトレイシーは、撮影中から胸部の違和感があったとのこと。
瞳を潤ませるヘプバーンの胸には、ともに過ごした思い出が去来していたのかもしれませんね。

 
映画データ
製作年:1967年
製作国:アメリ
スタンリー・クレイマー
脚本:ウィリアム・ローズ
出演:スペンサー・トレイシー
    キャサリン・ヘプバーン
    シドニー・ポワチエ
    キャサリン・ホートン
    セシル・ケラウェイ
    ビア・リチャーズ