しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】パーソナル・ショッパー

暫く忙しくしてましたが、ようやく落ち着いてきたので久々に映画記事を。

パーソナル・ショッパー(2016)
Personal Shopper

【あらすじと感想】
多忙なセレブに代わり服やアクセサリーを調達するパーソナル・ショッパーとしてパリで働くモウリーン。
もう一つ彼女がパリに暮らす理由は、亡くなった双子の兄ルイスからのサインを受けとるため。共に霊媒体質を有する二人は、どちらかが死んだときにはあの世からサインを送ろうと約束していたのだ。

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オリヴィエ・アサイヤスがカンヌで監督賞を受賞した心理ミステリーということで興味を持ってました。でも内容を知らなかったので観てみてちょっとビックリ。

 

モウリーンを演じるのはアサイヤスの前作『アクトレス〜女たちの舞台〜』でもコラボしたクリステン・スチュワート
セレブのパーソナル・ショッパーという今回の役は有名女優のアシスタントという『アクトレス~』の役柄に通じるものがあり、前作の派生的な作品です。

モウリーンは双子の兄を突然亡くし喪失の淵にいます。
同時に兄と同じ心臓の奇形を有していることから死への不安も抱えていて、どこか心あらずで不安定。

忙しく世界を飛び回る雇い主とは殆ど会えず、モウリーンはまるで実態のない人物のために雑用をこなすかのようで、彼女の存在自体が実態を感じられないのです。

内容を知らずに観たのでちょっとビックリと書いたのだけど、この映画は思いがけない展開を見せます。まず、あの世の兄と交信しようとする時点で「思いがけず」ホラーだし、ある事件まで勃発し犯人は誰だというミステリーへとなっていくのですよ。


と、ここからはネタバレで書かかせてもらおうと思います。
というのも、様々な疑問への答えを提示されていないため、とりあえず独自の解釈を書き、それをもとに感想を述べなければこの映画を語るのは難しいから。

なので、興味のない方、これから観ようとする方はこれ以上は読まないでください。
スピリチュアルなミステリーであり、解釈の難しい映画なので、そういったものに興味のある方にはお勧めします。

 

とうことで、ネタバレ開始


まずは様々に散りばめられた謎(疑問)を整理しよう

疑問 その1
モウリーンは列車で移動中、スマホで謎の人物からメッセージを受け取りチャットするが送信者は誰だったのか

疑問 その2
モウリーンは雇い主キーラの惨殺死体を発見する
キーラを殺したのは誰なのか

疑問 その3
謎のチャット相手に呼び出されホテルの一室に赴くモウリーン
部屋の鍵が開く音と同時に画面が暗転
その後に起きる不可解なシーンの意味は

疑問 その4
最後にモウリーンは恋人のいるオマーンに行く。
そこでラップ音を聴き霊と交信。ルイスは安らかか?と問うが答えは「No」
最後のモウリーンの言葉、「気のせいなの?」の意味するところは?


私自身の解釈としては、キーラを殺したのはキーラの元彼のインゴで
モウリーンのスマホに連絡してきたチャット相手もインゴだと思う。これはほぼ間違いなし。(警察の取り調べの中で、キーラの死後、何者かがキーラのコンピューターでメールをチェックした履歴が残っていた)

おそらくはモウリーンを犯人に仕立て上げようとしたインゴが、警察に事情聴取された後証拠不十分で釈放されたモウリーンを殺すためホテルに呼び出したのでしょう。
その後ホテルを出たところを待ち伏せしていた刑事に捕まり、彼らに発砲していたことからインゴが銃を所持してホテルに入ったことは確か。

ではモウリーンはどうなったのか。
実はモウリーンはチャット相手(インゴ)からホテルの329号室に行くよう指示されたけれど、彼女はその隣の部屋に入ったのでしょう。部屋で聴いたのはインゴが隣のドアを開ける音だったと思われます。

画面が暗転した後、インゴがホテルを出る前に、まるで透明人間のように姿のないものが自動ドアを開け通っていく様子が映し出されていますが、それはおそらくルイスの魂で、彼がモウリーンを守るために部屋番号を入れ替えたのでしょう。

その後モウリーンはルイスの元カノの新しい彼氏アーウィンと会って話をしています。アーウィンとの会話は映画を理解する上でキーとなるものがたくさん詰まってました。

 

問題は疑問4で示したオマーンでのラストシーン
モウリーンは霊と交信し、最後に「気のせいなの ?」という台詞を放って映画は終わります。正直この時点で「はぁ?」となってしまった。


気のせいって何? モウリーンの体験したすべてが気のせいってこと?
殺人事件も、霊との交信も??

それではあまりにもつまらない映画になってしまうではないですか

でも「気のせい?」と訳されてる台詞、実際には「Is it me ?」なんですよね。

思うにルイスの霊が平穏でいられないのは、モウリーンがルイスの死の悲しみから抜け出せていないからではないのかな。

モウリーンの心の平穏がない限りルイスの魂は浄化できないのでしょう。ラストでモウリーンはルイスの平穏を乱してるのは「私なの?」とようやく気付いたのだと思います。

もう一つ、モウリーンはホテルでインゴに射殺され、その後の彼女は幽霊という見方もできますが、そこは解釈が難しいところ。

とにかく「全部、気のせい?」では解釈が広がらず困惑するしかなかった。
読み取りが難しい映画での翻訳者の苦労というのを感じるところですね。

ちなみに今回私はスタチャンでの観賞でしたが、映画の中のクリステンの台詞の語尾がいちいちキャラに合わない気がして気になってました。公開バージョンやDVD等とは比べていないので他で観るともっと違う印象だったかも。

いずれにせよ、これは愛する者の死を受け入れる過程を描くグリービングの物語でした。映画の感想としては、コミュニケーションが希薄な世の中にあって
自分が好きなものが何なのか、どうすることを望んでいるかも定かでなく
誰が死んでるのか生きてるのかさえわからない世界観が面白かったし、グリービングを変わった角度から捉えたところも興味深く、飽きずに観ることができました。
ホラー味が強すぎなのは個人的にはきつかったけれど、クリステンはうまい役者です。


長文駄文ごめんなさい。お付き合いくださった方に感謝です。