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映画ノート

『昼顔』 妄想主婦の秘かなチャレンジ

好きな女優として真っ先に挙げたいのがカトリーヌ・ドヌーヴ
今日はドヌーヴの魅力を最大限に引き出した『昼顔』の感想を
 
昼顔(1967)
Belle de jour
 
【あらすじ】
セブリーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)はパリに暮らす美しい若妻。
医師の夫を愛しているのに、性生活に戸惑いがあり、夫には我慢を強いている。
そんな心理を反映してかマゾヒスティックな空想に駆られるある日
セブリーヌは夫に内緒で昼間だけ「昼顔」という名前で娼婦館で働きはじめる・・
 
【感想】
ジョセフ・ケッセルの同名小説を原作とするルイス・ブニュエル監督作品です。
美しいドヌーヴが鞭打たれたり、顔に泥をぶつけられたリ、御者に犯されたり
そのあられもない姿に当時ファンはさぞ驚いたことでしょう。
やがてそれらのシーンはセヴリーヌの妄想であることがわかってきます。
ではなぜ妄想するのか

あるものは実は淫乱だからと断じるけれど、それを示す描写はありません。
フラッシュバックから想像できるのは、彼女が幼い時に使用人(多分)から性的暴行を受けていたらしいことと、その罪悪感から儀式で神に誓うことさえも拒んできたことのみ。
 
勿論少女時代のその経験がセブリーヌに性の喜びを植え付けた可能性もあるけれど
少なくとも彼女の中で、性行為は汚らしいものだったのではないか
確かなことは、セブリーヌが夫を愛し、夫の愛にもこたえたいと思っていること。
娼婦として客をとることがトラウマを払しょくし、性への壁を取り除く助けになると信じていることでしょう。
 
氷のように美しいドヌーヴをヒロインに据えることは、そのギャップの大きさから
スキャンダルな要素を強めることに成功してますが
妄想の中の田園風景のおとぎ話的なのどかさでエグさを打ち消してもいて
ブニュエルの絶妙な匙加減がニクいよねぇ。
セヴリーヌは性の歓びを覚え、目的達成まであと一息となるのですが
客の一人が彼女を愛し過ぎたことから、ある悲劇が起きてしまう。
そのあたり、ブニュエルは意地悪です。
 
でも無人の馬車が遠ざかっていくラストシーンは「彼女にもう妄想は必要ない」と教えてくれるわけで、ある意味ハッピーエンドな結末です。
ただ・・・、彼女の中でシャン、シャン、シャンと鈴の音が再び鳴り響くことがなければいいなと かすかな不安も残るのですけどね。
 
大好きです。