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映画ノート

【映画】鑑定士と顔のない依頼人

エンニオ・モリコーネ追悼に、彼が音楽に携わった作品をいくつか観て行こうと思ってます。まずは『ニューシネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルトナーレが監督した『鑑定士と顔のない依頼人』から。

 

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鑑定士と顔のない依頼人 (2013)
The Best Offer(英題)

【あらすじと感想】
一流の美術鑑定士にして、カリスマ的オークショニアのヴァージル・オールドマンの元に、両親が遺した美術品の鑑定をしてほしいと女性からの依頼が舞い込みます。。
クレアというこの依頼人は決して姿を見せようとせず、ヴァージルを怒らせるのですが、後に彼女は広場恐怖症という病気で、人前に出ることを恐れていることがわかると、ヴァージルは他人との接触を恐れる自身と重ね合わせるんですね。
ある日、物陰に隠れクレアの姿を盗み見たヴァージルは美しいクレアに心惹かれます。やがてクレアもヴァージルに心を開くようになり、2人の幸せな恋が始まったかに見えたとき、映画は思いがけない展開を見せる・・という作品。


2013年公開当時、周囲の評判はあまりよろしくなかったのを記憶してます。
終盤の展開に、さもありなんと思ったところですが
一風変わった登場人物や、ミステリアスな依頼人と距離が縮まるさまには興味をひかれます。狂言回し役のロバート(ジム・スタージェス)にテーマを語らせすぎるうざさはあるものの、重厚な美術品の眼福効果も相まって面白いのは間違いない。ただテーマを散りばめる割に説明不足があるため、捉え方によって賛否が分かれる映画だろうとは思いますね。


ここからはネタバレになりますので、未見の方はご注意いただきたいのですが

 

 

もしも、本作がヴァージルの女性画のコレクションが全て消えてしまうところで終わっていたとしたら、これは本当に可哀そうな話ということになるでしょう。

勿論気づかぬうちに人を傷つけ、敵を作っていたヴァージルに非がないわけではないですね。
ヴァージルに画家としての才能を否定され、あげくオークション詐欺の片棒を担がされたビリー(ドナルド・サザーランド)の積年の恨みが生んだ出来事であり、どんでん返しとしてはよくできています。

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けれど、映画にはさらに続きがあって
時間軸を交錯させながら、ヴァージルの慟哭と抜け殻のようになりながらリハビリを続ける様子が描かれます。
ヴァージルの悲惨な顛末を描くだけの映画なら、この終盤部分は蛇足でしょう。

映画のテーマは「真と偽」。さらに「偽物の中にも真実がある」ということで、終盤はその真実を希求するヴァージルの執念を描くもの。
すなわち、クレアの愛を確かめるための物語だったと思うんですよね。

クレアの正体については、潔いくらいに説明はないので想像するしかないのだけど

彼女を操っていたのがビリー(もしくはロバートとの共謀)なのは間違いないところ。「蜘蛛の巣から逃れられない」とはおそらくビリーとの関係を示唆していて
金銭的に頼っていた可能性はありますね。
それでも、ヴァージルが暴漢に襲われたときに走り寄りキスする姿など観ると
クレアのヴァージルへの思いはまんざら嘘ではないように思えました。

最後にヴァージルはプラハを訪れます。
クレアが話していたカフェ ナイト&デイにいるヴァージル。

偽物だったクレアの話にも一つ真実があり、クレアを愛した事実を心の支えに生きていく男の物語として完結しても悪くはないけれど、

ヴァージルが(多分クレアの)絵画を携えていたことや、新しい家を準備していたことを考えると、歯車だらけの店でヴァージルはクレアを待っていたのではないかと。

勿論ヴァージルが勝手に待っているだけとしたらそれも悲しい話ですが、助手が手渡した手紙の中にクレアからの手紙があったとしたら・・

哀しみを湛えたモリコーネの音楽も、最後に少し希望を感じさせるものに変わった気がして、クレアから何らかの連絡があったと取れなくもないのです。

歳の差カップルがありか は別の問題として
本物を見極めるヴァージルの鑑定士としての腕は確かだった。
2人の歯車はすでに回り始めていた と、そんな風に見終えたとしたら楽観的過ぎるかな。

 

映画データ
製作年:2013年
製作国:イタリア
監督/脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュシルヴィア・フークスドナルド・サザーランドジム・スタージェス/フィリップ・ジャクソン

音楽:エンニオ・モリコーネ