しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】家へ帰ろう

モリコーネ追悼特集は自粛ですっ飛びました。
またそのうちにということにして
時期も時期なんで、ちょっとだけ戦争関連の作品を。

まずは最近観た中で一番お気に入りの一本。
ホロコーストを生き延びたポーランド生まれの老人が、70年の時を経て
命の恩人である親友を訪ね母国へと旅する話を描くアルゼンチン映画『家へ帰ろう』を。

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家へ帰ろう(2017)
The Last Suit(英題)


【あらすじと感想】
アルゼンチンに住む88歳の仕立屋アブラハムは、施設に入れようとしている家族から逃れ、ポーランドへ向かうための旅に出る。
目的は、70年前にホロコーストから命を救ってくれた親友に自分が仕立てた「最後のスーツ」を渡すこと・・。


今年で戦後75年。ホロコースト体験者の現在を描く作品は、タイムリミットを迎えつつありますね。
2017年に作られた本作の主人公アブラハムも88歳。しかし、実在した人物というわけではなく、
本作はポーランド人である監督のお爺さんから聞いた話や、ホロコースト生存者が70年の時を経て恩人に会いにいくという
偶然耳にした話からイメージを膨らませて作った物語だとか。
ホロコースト映画は数あれど、ロードムービーとして描かれている点が珍しいですね。

冒頭、ユダヤ人と思われる男女がホールのようなところでバイオリンやアコーディオンの生演奏に合わせ、楽しそうに踊っています。
後にそれは主人公アブラハムの回想のワンシーンで、踊っているのは彼の両親や親族だとわかるのですが
そのシーンだけで、ポーランドユダヤ人の音楽性や豊かな暮らしぶりが窺え、それだけにユダヤ人狩りが始まって、彼らは全てを奪われただろうことに心が痛みます。

場面代わって、アアブラハムの暮らすアルゼンチン。
孫たちに囲まれ、一見幸せそうなアブラハムですが、翌日には老人施設に入ることが決まっていて家では娘たちが家具を運び出している。
アブラハムを理解し、心配しているのはどうやらお手伝いさんのみ。
その夜アブラハムは最後に作った青いスーツを持って、娘たちに内緒で、一人ポーランドに向うのでした。

そこからは頑固爺さんの一人旅。

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回想と旅の途中出会う人々に話す話から、アブラハムがどんな過去を背負ってきたかが分かってくると、頑固にならざるを得なかった彼の人生が透けて見えてくるのです。
片道切符のその旅はトラブル続きながら、それでも彼は少しづつ人と心を通わせていく。頑なだったアブラハムの心を少しづつ溶かしていくさまが心に沁みます。

アブラハムを演じるミゲル・アンヘル・ソラの頑固で意固地だけど、どこか達観してユーモアを湛えた佇まいがいい。

 

長編監督作品二作目というパブロ・ソラル監督は殺戮シーンなしに
悪夢のような、はたまたホラーのような演出で主人公のトラウマをあぶりだし、ホロコーストの悲惨さを伝えることに成功しています。
さりげなく優しい人々と出会うロードムービーとの対比も絶妙。

そして私がこの映画で特に好きだったのは音楽シーン。
前述した冒頭もいいですが、ホテルの受付嬢(結構なお歳ですが)の芳醇にして哀愁を帯びた歌声に引き込まれます。
サントラが欲しくて音楽のフェデリコ・フシドで検索したけど、Amazonでは見つからず。でもYouTubeでフェデリコ・フシドが作曲した他の映画音楽を沢山聴けました。
やっぱりいい!名前覚えておこうと思います。

 

映画データ
製作年:2017年
製作国:スペイン/アルゼンチン
監督/脚本:パブロ・ソラルス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ/アンヘラ・モリーナ/オルガ・ボラズ/ナタリア・ベルベケ/マルティン・ピロヤンスキー