しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】誰が私を殺したか

映画ブロガー(一応)的今年の抱負のひとつは、メジャーであるなしに関わらず古い名作をたくさん観ること。
そんなわけで新春初投稿はこちら

f:id:puko3:20210104094704j:plain

誰が私を殺したか?(1964)
Dead Ringer

ライアン・ジェームズの原作を『何がジェーンに起こったか?』のベティ・デイヴィス主演で映画化したサスペンスドラマです。
監督は俳優出身のポール・ヘンリード。

【ストーリー】
双生児の姉妹イーディス(ベティ・デイヴィス)とマーガレット(ベティ・デイヴィス2役)は、マーガレットの夫フランクの葬儀で再会する。
かつてイーディスはフランクを愛していたが、マーガレットがフランクの子供を妊娠し、フランクは責任を取る形でマーガレットと結婚していた。
葬儀後マーガレットに誘われ邸宅を訪れるイーディス。マーガレットに子供のことを尋ねると幼くして死んだと応える。
しかし、帰りの車中、運転手に「マーガレットは一度も子供を産んでいない」と聞かされ、策略だったと知ったイーディスはマーガレットを呼び出し殺害。
自身が自殺を図ったように状況を整えたイーディスはマーガレットの服に着替え、マーガレットの乗ってきた車に乗り込み邸宅に戻るのだった。マーガレットに成りすまして。

 

【感想】

何がジェーンに起こったか?』(62)で妹と確執のある姉を怪演したベティ・デイヴィスが今回も姉妹のドロドロサスペンス劇場を盛り上げてくれます。いかにも二匹目のどじょうを狙った感がありますが、グロテスクな衝撃を伴った前作よりも本作の方が面白いです。

 

面白さの理由、まずはベティ・デイヴィスが確執のある双子の姉妹を一人二役で演じている点。髪も顔も同じながら、まとう空気の違う2人を演じわける演技力には、彼女にいびつなメイクも狂気も必要ないと思わせてくれますね。

f:id:puko3:20210104093503j:plain

モノクロが美しい撮影もいいんですよね。
序盤、二人一緒にいる場面ではマーガレットがベールで顔を覆っていることが多く、さもありなんと納得するんですが、2人の顔がしっかり見えるときには、両方デイヴィスなのに驚きました。この時代にどう撮影したんでしょう。
違和感なく編集したとしたら、その技術も大したもの。

 

妹を殺し屋敷に入ってからは、正体がバレないかと気をもませます。
屋敷でイーディスが顔のベールを初めてとる瞬間や、鍵のかかった金庫の扉をメイドの目の前で開けなければならないシチュエ―ションなど、デイヴィスの緊張の演技は勿論、戸惑う使用人の表情など、役者陣の演技、サスペンスフルな演出も秀逸です。

 

フランクの遺産を受け取る書類にサインするため、イーディスがマーガレットのサインを練習するシーンは『太陽がいっぱい』を思い出すところ。
結局短時間では習得できないと悟ったイーディスの行動には度肝を抜かれました。

f:id:puko3:20210104093547j:plain

おそらくはマーガレットが嫌い、部屋に近づくことも許さなかったであろう飼い犬が、イーディスにすぐになついてしまうのは、使用人たちに偽物と気づかれそうでひやりとさせると同時に、犬にも善人、悪人を見分けることができると感じさせます。

 

イーディスはマーガレットを殺した殺人犯ではあるけれど、真からの悪人ではないと思わせるのに一役買っていて、マーガレットのクズさ加減と凶悪性が明かされる頃には、完全にイーディスに共感&肩入れしてしまいます。

そして、もしも葬儀のあとマーガレットの屋敷に寄らず、偽装結婚の事実を知らずに済めば、マーガレットを殺すことはなかったのではないか
また、せめて殺人を決意するのが数日遅ければ、フランクの遺産の一部がイーディスに贈られ、バー経営の行き詰まりに自暴自棄になることもなかったかもしれない
あるいはホッブズ刑事の愛に気づいていたら、マーガレットへの憎しみも幾分和らいだのではないか・・などイーディスが罪を犯さずに済む道を選べなかったのかと考えずにはいられません。

 

しかし、人を殺めてしまった事実は覆らず、その罪から逃れることはできないというのがこういう映画の掟でしょう。坂道を転がり始めた運命はさらなる不運を身にまとい、やがてマーガレットの犯した罪まで背負うことになる皮肉。

 

どっちにしても殺人罪は逃れられない中、イーディスがマーガレットとして極刑を受け入れるのは、ホッブス刑事のために、彼の愛する「虫も殺せぬ優しい女性イーディス」として自身を葬りたいと思ったからかなぁ。

そして、すべて気づいていたかもしれないホッブスがなにも言わないのは、イーディスのその思いを受け止めたから。
堅実、誠実なホッブスを演じるカール・マルデンがいいんですよね。
殺伐とした映画になりがちな本作に優しさを与えていて素晴らしかった。

 

情念に突き動かされたクライムサスペンスと思いきや
孤独な中年男女のささやかな恋のドラマに最後は泣かされました。名作です。

 

 

 


映画データ

製作年:1964年
製作国:アメリ
監督:ポール・ヘンリード
脚本:アルバート・ビーチ/オスカー・ミラード
出演:ベティ・デイヴィスカール・マルデン/ピーター・ローフォード/ジョージ・マクレディ