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映画ノート

きっと ここが帰る場所



きっと ここが帰る場所(2011)イタリア/フランス/アイルランド
原題:This Must Be the Place
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:ショーン・ペン/ フランシス・マクドーマンド/ ジャド・ハーシュ/ イヴ・ヒューソン/ ケリー・コンドン、 ハリー・ディーン・スタントン / ジョイス・ヴァン・パタン
皺の刻まれた顔にゴスメイクを施した元ロックスターの中年男シャイアン(ショーン・ペン)は
ダブリンの豪邸で消防士の妻(フランシス・マクドーマンド)と半隠遁生活を送っている。
ある日、彼の元に故郷アメリカから30年間疎遠だった父危篤の知らせが届く。
臨終には間に合わなかったが、父がアウシュビッツに暮らした過去を知ったシャイアンは、
父の遺志を継ぎ、元ナチス親衛隊員の男を捜す旅に出る・・。

 ショーン・ペンがこのメイクで元ロッカーを演じ、しかもナチハンター?と、その設定だけでもワクワクさせられますが、まずシャイアンのキャラクター描写がいいんです。
一見魔法使いのおばあさんのような風貌ゆえに、通りすがりの人に奇異な目を向けられたりもするけれど、彼は顔にかかる髪をフっ!と口で吹きとばしては、様々なストレスをやり過ごす。空気の抜けたような笑い方には脱力だし、トボトボ歩きはまるで老人のよう。
緊張感漂うはずのシーンでも、リアクションの可笑しさに爆笑させられたし、ショーン・ペンはある意味怪演ですなぁ。

 さて、シャイアンは、父の日記から知ったナチス残党を探す旅に出ることになるのですが、彼自身はナチスに恨みを持つわけではなく、従って『イングロ』や『ヘンゼルとグレーテル』のようなものを期待すると予定が外れます。
むしろ父の思いに近づくことで傷ついた心を癒し、
旅を通し大事なもの=親子の愛に気づくというロードムービーです。

印象的なのはプールの描き方。
空っぽの自宅プールは枯渇したシャイアンの心を表し
旅の終わりに、ある母子にプールをプレゼントするのは、プールに水が満たされるように、
彼の心に人間らしい感情が蘇るのを象徴しているかのようです。
トーキング・ヘッズデヴィッド・バーンが音楽を担当してることから映画は様々な曲に溢れ、説明描写が少ないこともあって、ミュージッククリップの趣でもあります。
劇中バーン自身が本人役で登場し、原題にもなっているThis Must Be the Placeを披露してくれのも見もの。

 ちょっぴりファンタジックな演出も見られる中、私はラストシーンがよく解らなかったんですよね(汗)
トニーを待ちわびるメアリーのお母さんについてはもう少し説明して欲しかった。



ファンタジックといえば、普段はトボトボ歩きのシャイアンが、素手のスカッシュみたいなボールゲームをするシーンのエネルギッシュな動きはどこから来るんだ(笑)
妻を演じたマクドーマンドがまた可笑し可愛くて、二人の関係が微笑ましかった。
結局、帰る場所は妻のもとであり、人間らしい感情の戻った本来あるべき自分、だったのかな。

一度で理解できないところがあったし、2度観ても最後は謎が残ったけれど
この感じは好き。