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映画ノート

【映画】『涙するまで、生きる』閉ざされたアルジェリア戦争への思い。これはカミュ式ウェスタン

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涙するまで、生きる
2014)フランス
原題:Loin des hommes/Far from Men
監督/脚本:ダヴィド・オロファン
出演:
ヴィゴ・モーテンセン  / レダ・カテブ / ジャメル・バレク  / ヴァンサン・マルタン/ ニコラ・ジロー /  ジャン=ジェロームエスポジト/ ヤン・ゴヴァン

 
【あらすじ
1954年。アルジェリア独立運動が激しさを増す頃、アトラス山脈の寂れた山あいで教鞭をとるダリュのもとにアラブ人モハメドを連行した憲兵が現れる。モハメドを裁判にかけるために隣の町まで送り届けるよう命じられ断るダリュだったが聞き入れられず、翌朝二人は町を目指し歩き始める



【感想

何の知識ももたず、期待せずに観てとんでもなく好きな映画に出会うことがありますね。
これもそんな1本。

アルベール・カミュの短編集『転落・追放と王国』の一編をフランス人監督ダヴィド・オロファンが脚色しメガホンをとった本作は
、荒野に放たれた二人の男の自由とアイデンティティを模索するロードムービーにして、カミュウェスタンというべき作品でした。
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主人公ダリュを演じるのはヴィゴ・モーテンセン
ダリュはフランス側でアルジェリア戦争を戦った元軍人ですが、
今は両親の眠るアルジェリアの地で、小学校に寝泊りし、子供たちに歴史や言葉を教えています。
校庭は小石ゴロゴロ、木の切り株も露な粗末なもの。
おそらくはダリュ自身の私費を投じたのか、帰り際には子供たちに食料を配布する姿が印象的です。

ダリュの言葉として詳しくは語られないけれど、そこには彼の複雑な立ち位置にあるダリュの孤独が浮かび上がります。
ダリュはフランス人の入植者の父を持ち、アルジェリアで生まれ育ちながら、アルジェリア戦争に物申して批難を浴びたカミュ自身の投影でもあるんでしょう。

アルジェリア独立に向けた不穏な動きがある中、ダリュとモハメドは様々な危険に遭遇するわけですが
まさに命からがらの旅を通し、二人は互いの孤独に共鳴し少しずつ心を通わせていく。
けれども、モハメドを送り届けることはすなわちモハメドの死を意味すること。
予測を許さない展開に目が離せませんでした。

それにしても孤独な世捨て人のように暮らすヴィゴがものすごく嵌っていてよかった。
ハメド役のレダ・カテブも報復の連鎖を断ち切るため、自らの死を覚悟する男を好演。
諦観の果てにあった彼の瞳が、ダリュの粋な計らいで子リスのようにおどけ輝く。
これまで観た映画にも出ていた役者のようだけど上手い人だった。
ダリュとモハメドの2人が本当に愛しくて最高でした。

『涙するまで、生きる』はカミュの言葉からとったものらしい。

悪意の連鎖を断ち切るためとか、掟に従って死ぬのは無意味じゃないか
自分で考え、涙が出るまでとことん生きろ と
カミュの思いと共に、今も争いのさなかにある人々にむけた監督自身のメッセージでもあるんでしょうね。

紛争を背景にした映画なのに凄く静かで、厳しくも美しい自然を映し出す映像、ニック・ケイヴの音楽も素晴らしかった。





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