しまんちゅシネマ

映画ノート

アンダーグラウンド


1995年(フランス/ドイツ/ハンガリー)監督:エミール・クストリッツァ     原作:デュシャン・コバチェヴィッチ出演:ミキ・マノイロヴィッチ/ミリャナ・ヤコヴィッチラザル・リストフスキー/スラヴコ・スティマチエルンスト・ストッツナー/スルジャン・トドロヴィッチ/ミリャナ・カラノヴィッチ【ストーリー】1941年ユーゴスラヴィアナチス進攻下のベオグラードでは、パルチザンの義賊・詩人にして共産党員のマルコが親友クロを党に入党させ、めきめきと闇社会で頭角を表していく。4月、ナチスによる本格的な爆撃を受け、都市は焼け野原に。ナチスによる共産党員・パルチザン狩りが進むなか、マルコはクロを含む一族郎党を丸め込み、地下室(アンダーグラウンド)に退避させ武器の密造を行わせる。一方マルコ、クロ二人が恋こがれる女優ナタリアは障害者の弟・バタと自分の身の保身のためにナチス将校・フランツの恋人となるが、クロの奇策により奪還される。
■感想
1941年から50年に渡る、ユーゴスラビアの激動の歴史を描いた作品です。

物語は3部構成。
第1章はナチスの進撃から始まる第二次世界大戦下のユーゴ。第2章は冷戦の時代、第3章は内戦の時代の旧ユーゴです。

マルコという人物を通し、ユーゴの歴史的背景が描かれる本作では、戦争の爆撃の様子、ユーゴスラビア共和国誕生の様子、紛争の模様、チトー大統領の葬式の様子など、歴史的な映像に出演者たちを合成させるという手法をとっています。
特に国葬の映像にアラファト議長や各国の首脳など映し出されるところも興味深いところ。

観始めてすぐは、正直なんてうるさい映画なんだろうと思いました(笑)
ブラスバンドの賑やかな演奏、爆撃音の中の人々の怒鳴り声。
おまけに主人公マルコを演じたミキ・マノイロヴィッチときたら、高田純次と「ボラット」のサシャ・バロン・コーエンを足して2で割ったような風貌だし。。友人クロともなんだか似ていて見分けがつかない。
暴力的で騒がしい、、あー、これは波長が合わない!!と思ってしまったのです。

普通であればそれでリタイアする所ですが、2時間51分の長丁場飽きずに観たのは
地下で暮らす人々の暮らし、ナタリアを巡る男たちの争奪戦が可笑しかったのと、後半に驚くような展開が訪れるから。


地下で暮らす人は、41年に地下生活を始め、第2次世界大戦が終わったことも知らずに、武器を作り続けるんですが、
ここでの生活が意外にも活気に溢れてるんですね。ちょっと「未来世紀ブラジル」の雰囲気。
地下で生まれたクロの息子ヨヴァンも結婚式を挙げるまでに成長。
あるとき、クロと一緒に地下を抜け出したヨヴァンが、初めて見る月を太陽と間違うのですが、
夜明けを待ち、本当の太陽をみて感動する様子は心に残りました。

ところが、このあたりから物語は一気に哀しい展開に…。

チトー大統領の死去に伴い、再び暗黒の時代を迎えるユーゴスラビア
しかしこの時にはもう旧ユーゴと言わなければなりません。

親友や家族でさえも騙し、裏切らなければならなかった闘いの時代。
「祖国」を愛し、守りたかった彼らの哀しみと無念さに、後半は涙が溢れて止まりません。

歴史的な背景を悲惨に描き出しながらも、ユーモアに溢れ、しかもファンタジーな仕上がりです。
「昔、あるところに国があった…。」そんな風に子供たちに伝えなければならない人々の哀しみが心に沁みます。


ラストシーンはもう笑い泣きに近い状態。

実は、前半部分、分かりにくかった事もあって、観直したんですが、
2度目に観たら色んな伏線に気付きました。
最初うるさいと思っていたブラスバンドの演奏にさえ泣けちゃった。

好みは別れるところかもしれませんが、今までに感じた事のない感慨を覚える作品です。


95年にカンヌでパルム・ドール受賞



★★★★☆