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映画ノート

ヒトラーの贋札


2007年(ドイツ/オーストリア)監督:ステファン・ルツォヴィツキー出演:カール・マルコヴィクス/アウグスト・ディール/デーヴィト・シュトリーゾフ/マリー・ボイマードロレス・チャップリン/アウグスト・ツィルナー/マルティン・ブラムバッハ【ストーリー】第二次世界大戦の最中、ナチスはイギリスの経済を混乱に陥れるため精巧な贋ポンド札の製造を計画する。この“ベルンハルト作戦”のため、ザクセンハウゼン強制収容所には、世界的贋作師サリー、印刷技師ブルガー、美校生のコーリャなどユダヤ系の技術者たちが集められた。収容所内に設けられた秘密の工場で、ユダヤ人でありながら破格の待遇を受け、完璧な贋ポンド札作りに従事することになったサリーたち。しかし彼らは、自らの延命と引き替えに同胞を苦しめるナチスに荷担するジレンマに次第に葛藤と苦悩を深めていく。

80回アカデミー賞をおさえよう! 外国語映画賞 『ヒトラーの贋札

■感想
これはとっても面白かった!

まず“ベルンハルト作戦”というのを知らなかったのですが、これは第二次世界大戦中、ナチス・ドイツのとった戦略で、
英米経済を混乱に陥れるために、大量の贋札を作ったというもの。

この贋札作りに従事したのが、ユダヤ人収容者たち。
戦前、贋札作りのプロとして裏世界に名を轟かしていたユダヤ人サリー(カール・マルコヴィクス)を中心に、印刷、銅板掘り、それぞれのプロが集められ、完璧な贋札を作ってしまうんですね。

しかしながら、この贋札作りは、ユダヤ人を迫害するナチスドイツを助けることに他ならない。
作業にあたるユダヤ人たちの葛藤が始まるわけです。。



面白いのは物語りの主人公に、この元贋札作りのプロ、サリーを据えたこと。
ちょっと頭の薄いベンアフ兄系のこの方、けっして正義感溢れるタイプとかではないの。
チームの中にはナチスを助ける贋札作りをボイコットすべきだと主張する若者もいて、普通だと彼が主役でしょ。

今日銃殺されるよりも、明日ガス室送りになることを望むと言うサリー。
たとえ一日でも命が惜しいと思う彼は、時に自己チュウで嫌なやつだったりする。でも、だからこそ人間だと思うのです。
完璧な贋札作りに没頭する様子も、半ばもの作りへの執着心から。
贋札作りの達人として生きてきたのも、こんなプロ意識がさせたものだったかも、、と彼の過去にも思いを馳せたり‥。

贋札作りが上手くいかなければ殺される状況の下、自らのアイデンティティと延命の狭間に悩む技術者たち。

ユダヤ人労働者の葛藤をスリリングに描きあげ、時代を切り取ることに成功した社会派ドラマの傑作でしょう。

観終わって、もう一度冒頭に戻ると、主人公サリーの虚ろな表情と、行動の謎が解けます。秀逸!!



★★★★*