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映画ノート

アンジェラの灰




アンジェラの灰
1999年(アメリカ/アイルランド
原題:Angela's Ashes

監督:アラン・パーカー
出演:エミリー・ワトソンロバート・カーライル、ジョー・ブリーン、キアラン・オーウェンズ、マイケル・リッジ、ロニー・マスタースン


【ストーリー】
1930年代のアイルランドを舞台に、飲んだくれの父と、涙にくれる母、幼い兄弟とともに暮らすフランク少年の奮闘記を名匠A・パーカーが、美しく叙情的な映像で描き出す。N.Y.で出会い結婚したマラキとアンジェラは、5人の子供をもうける。末娘の死を機に、彼らは故郷アイルランドへ戻るが……。(映画.comより)


今日はアイリッシュ・トラベル選出~の3位にランクインした本作を。
原作者のフランク・マコートアイルランドで過ごした自身の少年時代を綴りピュリッツァー賞を受賞した小説の映画化です。
1930年代、アメリカもアイルランドも貧しい時代
NYからアイルランドの母の故郷リミックスに戻ってきたマコート一家も
フランクを筆頭に男の子4人を抱え生活は困窮。
北アイルランド出身の父親(ロバート・カーライル)には特有の訛があるようで、
仕事にもなかなかありつけない。
それでもプライドはあり、暖炉にくべる石炭がなくても、道に落ちたものを拾うことは許さない。
そんな夫をなじりながら、母アンジェラ(エミリー・ワトソン)は長男フランクを連れて石炭を拾う。
子供が凍えているのになりふりかまっていられない、母は強しです。
けれどそうして夫をなじり、子供の前で悪態をつけば夫は父親の威厳も保てるはずもなく、いつしか酒に溺れるようになるんですね。生活は困窮する一方です。

映画はマコート一家の困窮振りと、そんな中で必死に生きていくフランクたちを描くものですが、なんと言っても興味深いのが、アイルランドの文化やアイルランド人気質を見事に描きあげている点。

父がリミックスでなかなか仕事にありつけないのは、北アイルランドの出であることにも原因がありそう。
おばも、フランクたち兄弟を北アイルランドの血が半分混じってる子供なんか
養子に欲しくないなどと言っており、リミックスの人々は、北アイルランドに対する敵対心を隠さない。
学校の教育もイギリスに対する敵対心をむき出しにしてるんですね。
今はここまではないでしょうけど、子供のころからこういう教育を受けるんだなぁとちょっとびっくり。

宗教や、マイケル・コリンズなど先人をリスペクトする教えも印象的。
暮らしぶりで印象的だったのが、貧しさの中、アンジェラが政府に施しを講いにいくシーン。
要請に応じ、家具や食料などのチケットのようなものを交付するシステムがあるんですね。
ネチネチと嫌味を言われたりするけど・・。何かとシニカルなのもアイリッシュ流。
貧しいのに子沢山なのは、堕胎は勿論、
夫のお誘いを断っちゃいけないっていう宗教の教えによるものだったのねぇ。

アイリッシュ・トラベルの本作の紹介のところで、観光スポットとしてこの映画の舞台となったリメックスが紹介されていて、晴れてたら残念かもと記されていた。
それほど雨の多い地域のようで、フランクの家も一階は常に雨水で冠水している状態。
バケツに排泄されたお小水も、一杯になったら通りに捨てるのね(汗)
雨でフラッシュするからいいのか。

そんなこんなで、様々なカルチャーギャップに驚かされましたが、
そんな貧しい暮らしながら、母アンジェラの強さ、いつかアメリカに行きたいと希望を持ち続けるフランクの前向きなたくましさに感動する、壮大な抒情詩になってます。
シニカルさは時にユーモラスでもあり、面白かった。

ちなみにタイトルのアンジェラの灰というのは、渡米し成功したフランクが一家をアメリカに呼び寄せ、母アンジェラの死後、その遺灰を故郷アイルランドに持っていったという原作のストーリーによるものらしいです。