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映画ノート

『ソハの地下水道』にユダヤ人を匿った真実の物語

戦争について描く作品を一本。
第2次大戦時、ナチ支配下ポーランドユダヤ人を地下水道にかくまっていた男を描く
実話をもとにしたドラマ。
監督は『太陽と月に背いて』のポーランド人女性監督アニスカ・ホランド
来月(9/22~)日本公開予定の作品です。





ソハの地下水道
2011年(ドイツ・ポーランド
原題:
In Darkness
監督:アニエスカ・ホランド
出演:ロベルト・ビッキィービクス、ベンノ・フユルマンヘルベルト・クナウプ



1943年3月、ナチス占領下のポーランド
地下水道で働くソハ(ロベルト・ビッキィービクス)は、
盗んだものを売り、生計の足しにする日々。
ある日、ゲットーから穴を掘って逃げてきたユダヤ人たちを見つけたソハは、
金目当てで彼らを地下水道に匿う。





ユダヤ人を救う話というと『シンドラーのリスト』を思い出しますが
本作は、ユダヤ人迫害の様子はスクリーンの中の風景的な見せ方で
歴史にも残っていないようなこじんまりした実話を
政治的な部分よりも、ヒューマニティに焦点を当てて描いているのが
この手の作品としては珍しい。


ポーランド人であるソハはホロコーストの対象ではないけれど
ユダヤ人を匿う罪は大きく、見つかれば家族の安全の補償もない。
逆にユダヤ人が隠れていることを通報すれば報奨金がもらえるとあって
ユダヤ人としては、ソハがいなければ生き続けることができない反面
いつ裏切られるかわからない不安に苛まれる。





両者の間には疑心暗鬼の空気が流れ、その緊張の描き方が絶妙。

しかし、溝鼠の生息する暗い地下水道に14ヶ月。
中には幼い子供もいたわけで、これが実話というのが驚きです。
実際、撮影の殆どが本物の地下水道で行われていて
出演者、製作者の苦労は並大抵ではなかったでしょうが
暗闇の中に揺れる光から、断片的に映し出される映像を追うのは
観てるほうもちょっと辛い。

けれどもそれによって閉塞感を共有できたのは確かで
監督は敢えてこのリアリティを選んだのでしょう。

人の悪は敵国によってのみもたらされるのではなく
人それぞれの中に存在するのだ と監督。
誰でも状況によっては悪魔に身を売ることもあるが
ソハのように、人命を救う勇気も持ちえるのだということでしょう。
ジーン・ハックマン似の悪人顔だったソハが
次第に優しい表情を見せ始め、妻と価値観を共にする様子が心地よい。
妻のキンガ・プレイスがいい味出すんだな、これが。



ユダヤ人を密告するなんて、神様の罰を受ける」
ユダヤ人も私たちも同じ人間」とうソハの妻の言葉に
監督のメッセージが込められているように思います。
どんな状況にあっても宗教心が大きな支えであるところも印象的。

最後は誇らしげに顔を輝かせるソハと妻の可愛らしさにほっこり。
泣き笑いになりました。
アカデミー外国語映画賞にノミネートされています。


★★★★