しまんちゅシネマ

映画ノート

自由ってなんだ 『ベルサイユの子』

ベルサイユ宮殿近くの森には多くのホームレスが住んでるんですってね。
本作は、その森に世捨て人のように暮らす青年と、
母親により森に置き去りにされた5歳の少年を描く『ベルサイユの子』。
同年、肺炎で37年の命を終えたギョーム・ドパルデューの遺作となった作品です。



ベルサイユの子
2008年(フランス)
原題:
Versailles
監督:ピエール・ショレール
出演:
ギョーム・ドパルデュー、マックス・ベセット・ド・マルグレーブ、ジュディット・シュムラ、
オーレ・アッティカ、パトリック・デカン



ホームレスの若い母親ニーナは、5歳の息子エンゾとパリの路上で暮らしている。
ある日、ベルサイユ宮殿近くの森に入ったニーナは、小さなあばら家を見つける。
それは世捨て人として生きるダミアン(ギョーム・ドパルデュー)の住まいだった。
ダミアンはニーナ親子が一夜を過ごすことを許すが、
翌朝、ニーナはエンゾを残したまま忽然と姿を消した。

ドラッグに溺れ仕事もできないままにホームレスになってしまったであろうニーナ
社会に適応できないままに、浮世から離れ生きているダミアン
美しいベルサイユ宮殿の周りで、こんな底辺の暮らしが存在している。
フランス社会の貧富の差を象徴する描き方なのでしょうか


可愛そうなのは母親に捨てられたエンゾです。
いつからこんな暮らしをしているのか、、
駄々をこねるでもなく、ついに母親に置き去りにされた時でさえ、泣くことをせず
不安な面持ちで、状況を受け入れようとする健気さが切ない。
流石にこんなエンゾを放っておくこともできず、面倒を見始めるダミアン。
やがて彼は、エンゾに教育を受ける環境を与えるべく頑張り始める。。

なるほど、これは血の繋がりはなくても、本当の親子以上の絆を持ちえることも
あるということを描く、感動物語なのだと思い始めるのですが
終盤に来て映画は思わぬ方向に転じ、戸惑うことになりました。


本作が監督デビューというピエール・ショレールは、重厚な音楽を用いて
静かで詩的な雰囲気を醸しだすことに成功しています。
エンゾを演じたマックス・ベセット・ド・マルグレーブの純真で切ない演技もあって
映画には終始惹き付けられました。
ただ、私には主眼が今ひとつわかりにくかった。

監督はこの映画で「自由」を描きたかったのだとか。
自由ってなんだろう。
責任を放棄してまで求めるものなのかな。
エンゾが唯一求めたのは、手を握っていてもらうことだけだったことを思うと
母親の愛は、なんか違うんじゃないかと思ってしまいました





ギョームは交通事故の後、感染症で切断を余儀なくされた右足の痛みを抑えての
演技だったらしく、終盤は知らずに観た私でも気づくほどに痛そうな歩き方になってました。
それでも、自由と責任の狭間で葛藤する主人公を演じた演技は秀逸
父親ジェラルド譲りの実力派俳優となれる逸材だったらしいだけに
これが遺作となってしまったのは残念です。

★★★☆