しまんちゅシネマ

映画ノート

ザ・ウォーター・ウォー





2000年にボリビアで起こった「水戦争」を、『コロンバス』の映画撮影のためその地を訪れたスタッフの目を通し描く社会派ドラマです。
2011年にラテン・ビート映画祭で『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』として公開されたタイミングであげた記事に加筆しています


ザ・ウォーター・ウォー(2010) スペイン・フランス・メキシコ
監督:イシアル・ボジャン
出演:ルイス・トサル、ガエル・ガルシア・ベルナル、エンマ・スアレス



映画監督のセバスチャンらスペインの撮影スタッフ一行がボリビアを訪れた。その頃、現地では欧米企業による水道事業の独占のため、住民たちの多くが水道料金の高騰にあえいでいた。エキストラの中から重要な役どころに抜擢された先住民族のダニエルは、撮影の合間に抗議活動に参加するようになるが……。
 
 歴史が変わるわけでもないのに、その認識はときを経て変わってしまうことがあります。
コロンブスの新大陸発見もそのひとつ。
昔は、大変な冒険家くらいのイメージだったのに、今では、コロンブス(・・と読むのは日本人くらいみたいなので以下コロンバスで)は金(きん)を求め、現住民を虐殺したジェノサイドの立役者として認識されるようになりました。

 映画はそんなコロンバスの映画を撮影しようと、南米ボリビアにやってきたスペイン人スタッフが遭遇することになるボリビアの「水戦争」を背景に、欧米人の征服の歴史を考えさせる作りが面白い。




 ガエル・ガルシア・ベルナルが演じるのは、スペイン人映画監督のセバスチャン。
現地では欧米企業参入により水道料金が200%跳ね上がり、住民と政府の間で摩擦が生じていました。公募したエキストラから、原住民のリーダー役に抜擢したダニエルは水事業に抗議する住民グループのリーダーでもあり、たびたび撮影に穴をあけるダニエルにプロデューサーのコスタ(ルイス・トサル)は、撮影に集中しろと諭すわけですが・・・






 まずコスタがこの地を撮影の場に選んだのは、制作費を安くあげられるから。
2ドルで雇ったエキストラに、危険な設営を手伝わせたりする貪欲でシニカルなプロデューサーがコスタであり、本作の主演です。
安く、質の高い映画を作ろうとするスタッフの思いなど、逼迫した問題を抱えた地元エキストラに通じるはずもなく、両者の価値観の違いが浮き彫りになります。
劇中映画の中で、コロンバスの残虐さが描かれるのですが、スタッフが、原住民を人とも思わず利用する姿には、欧米人のエゴはコロンバスの時代とちっとも変わってないじゃないかと思ってしまうところ。
利益を優先し住民の思いに目を向けないスタッフが、ことの重大さに気づいたときには、
事態は軍隊を動員しての大暴動に発展していたんですね。

 暴動に向かう過程のスリルは女性監督が撮ったとは思えないほどのリアルさ。
終盤、プロデューサーのコスタが変わっていく様子が、やや唐突ではあるものの
原住民の純粋さに触れ、大事なものに気づいていく様子には希望が感じられ、良い後味を残しました。
ベルリン映画祭で、パノラマ部門観客賞受賞。
ちなみにお隣の奥さんがボリビア出身なので水戦争について訊いてみたけど知らないと言われてしまった。地域が違うのかな。

2/17からの公開です。