しまんちゅシネマ

映画ノート

みな殺しの霊歌




「復讐を描く映画」シリーズ、めずらしく邦画で締めます。

みな殺しの霊歌(1968)日本
監督:加藤泰
出演:佐藤允倍賞千恵子中原早苗、 応蘭芳、 角梨枝子、 松村達雄菅井きん
ひとりの女が情交の後惨殺された。
半月のうちに、被害者と友人関係にあった女たちが次々と殺され、警察は連続殺人事件として捜査を進めるも、犯人を特定できずにいた。。


犯人(佐藤充)の姿は最初からスクリーンに映し出されていて
本作が犯人探しを主眼にしたミステリーでないことは分かります。
川島と名乗る男は、事件後小さな食堂に立ち寄り、店員春子(倍賞美津子)に魅かれ始める。
男と春子の純な交流にしばしホッとするのもつかの間、彼は新たな殺人に手を染める。
男にはどうしてもやり遂げなければならない復讐があったのです。


この映画がカルト的な位置づけにあるのは、まず
犯した後に惨殺するというインモラルな殺害方法があるでしょう。
そして、ひとつには犯人の「動機」にもあるでしょうね。




美しいもの、本当に大切にしたかったものを不条理に奪われた男の憤り
もしも春子と一月早く出会っていたら、
彼の空虚な心が春子という希望で満たされつつあったならば
事件は起きなかっただろうと思うとやるせない。
幸せを掴めそうで掴めない男と女の悲しい物語として印象に残りました。

春子の幸せを願う食堂のおやっさんの思いとか、昭和ならでは人情が滲むのがいいね。
『男と女』を意識したかのようなシャバダバダ系の音楽は、ドロドロした物語には不似合いに感じたけど
切ないノワールを盛りたてた 気もする。