しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】『刺さった男』ワンシチュエーションで引っ張るにはちと無理が




11月になりました。
今月後半は感謝祭特集として「家族と食事」にフォーカスした作品を観ていきます。
まず、月の初めは日本公開作品をいくつか。
刺さった男(2012)スペイン
原題:LA CHISPA DE LA VIDA/AS LUCK WOULD HAVE IT
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
出演:ホセ・モタ/ サルマ・ハエックブランカポルティージョ /ファン・ルイス・ガリアルド/ サンティアゴ・セグーラ/カロリーナ・バング
日本公開:2014・11/22
元広告マンのロベルト・ゴメス(ホセ・モタ)はもう2年も失業中。
その日は朝からついてなかった。
職を求め訪ねたかつての仲間には冷たくあしらわれ、ホームレスには殴られ
思い出のホテルは姿を消し、遺跡発掘工事中。
思わず立ち入り禁止区域に足を踏み入れたロベルトはクレーンに吊り上げられ
地面に落ちた弾みに後頭部には鉄の棒がグサリ!!





気狂いピエロの決闘』『スガラムルディの魔女』のアレックス・デ・ラ・イグレシア監督によるブラックコメディです。
タイトルから思い出したのがスチュアート・ゴードン監督の『THE CLASH ザ・クラッシュ』。
スティーヴン・レイ演じる主人公が事故で車のフロントガラスに突き刺さってしまうというお気に入りの一本ですが、職を無くした主人公のさえない一日を締めくくるとどめの不幸を描くと言う点も共通していて偶然には思えない(笑)
しかし、あちらは怒りの矛先が明確だったのに対し、本作では自業自得の事故でもあり
しかもその場から離れられないワンシチュエーション。
ここから話を膨らませるのは簡単じゃなかったでしょうね。

SNSを経て瞬く間に国民の注目を浴びることになるロベルトですが
頭に鉄の棒が刺さった状態で、「これは金になる」と睨むところは流石元凄腕の広告マン
放送権を巡る交渉など水面下で繰り広げられる金の抗争がシニカルです。




ロベルトには愛する妻子がいて、妻はサルマ・ハエック、息子はガクト風のビジュアル系w
社会情勢の批判含めシュールに笑わせてくれますが、でもあの状況で引っ張るにはちと無理があった。
笑いにも刺激にも慣れてしまうからね。
サルマの演技はいいのだけど、彼女には違うものを期待したのもあって、監督作品にしてはアクが足りないと感じてしまった。

それでも、シリアルドラマにシフトした後半は主人公の痛切なまでの家族愛に泣かされます。
『スガラムルディの魔女』でもお父さんは息子の将来のために強盗を犯してましたが、スペインの金融事情なんかも背景にあるのかな。家庭を持つお父さんななか特に共感する部分があるかも。
イグレシア監督はファンタジーに走らないこういう作品も無難に撮るんだなと感じた次第。
プライベートでも監督のミューズ、スガラムルディの美しい魔女を演じたカロリーナ・バングは今回はレポーター役で登場します。

こちらベルリンのプレミア会場での監督(左から2番目)と主演陣