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映画ノート

【映画】カラスの飼育

CRIA CUERVOS - Spanish Poster 2

【作品情報】
カラスの飼育(1975)スペイン
原題:Cria Cuervos
監督:カルロス・サウラ
脚本:カルロス・サウラ
出演:アナ・トレントジェラルディン・チャップリン、コンチタ・ペレス他

【あらすじ】
母を病気で亡くした9歳のアナは今また父を亡くす。
2人の姉妹と、脳卒中の後遺症で言葉を話さない祖母と、古くからのお手伝いロサとともに、叔母と暮らすことになったアナだが、アナらを厳しく躾けようとする叔母が「この世からいなくなればいい」と思うようになる。かくしてアナは叔母のミルクに隠し持っていた「毒」を入れることに。
あの晩、父にそうしたように・・。

【感想】
スペインの巨匠カルロス・サウラ監督、『ミツバチのささやき』のアナ・トレント主演の心理ドラマです。

愛人との情事の最中に死んでしまった父。
アナは父のベッドサイドから飲み残しの牛乳の入ったグラスを持ち去り、流しで丁寧に洗う。
伏せてあるグラスの中に紛れ込ませる周到振りです。
この時点で観客はこの映画が悪魔の子供が主役の心理スリラーなのだと構えるわけなんですが、じつはちょっと違う。
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この映画が作られた1975年はスペインで36年間独裁政権を主導したカルロス・フランコが死んだ年。
両親を亡くした少女の日常を描写しつつ、サウラは家族の関係にフランコ政権の政治背景を投影してるんですね。

さしずめ、映画開始間もなく死んでしまう軍人の父はフランコのメタファーでしょう。
父は母に不義理だっただけでなく、母(ジェラルディン・チャップリン)の夢と自由を奪います。
苦しみの中死んだ母は幽霊のようにアナの前に現れ、見るものを混乱させる。
さらに惑わされるのは20年後の姿と思われるアナを母と同じジェラルディンが演じていて
カメラ目線で子供の頃のアナの心情を告白するんですわ。
アナ・トレントがこうなるか?というのがショックで・・・
って話ではなくw現実と空想と未来までもが交錯する作りが面白いんです。
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メタファーの話に戻れば、母はフランコの圧政に苦しめられた市民
古きよき時代に思いを馳せ、昔の写真を眺めて過ごす車椅子の祖母も印象的。
アナは様々な「可能性」を秘めた若き力といったところか。
弾圧された過去に目を向ければ残虐な仕打ちをする可能性もある。
お手伝いのロサは、何が起きたのかを知ることが大事と家族の秘密をアナに話して聞かせようとする
けれどそれを拒むのが叔母。
アナは叔母に反撥もするけれど、やがて叔母の優しさにも触れていく。

「毒」の正体は映画を観てもらうとして
若い力は様々なことを学び吸収する
愛情をもって育てれば前向きに軌道修正することも可能だと教えてくれます。
姉妹揃って新学期の学校に登校するラストシーンのアナは、未来に希望を感じさせ爽やか。
子供が子供らしくいられる社会を作るのが大人の責任ですね。


色々書きましたが、子供を主人公にした心理ドラマとして普通に観ても面白いです。
劇中たびたび挟まれるスペインの流行歌もポップで可愛い。
10歳になったアナ・トレントは大きな瞳で残虐性と純粋さの混在するアナを抜群の存在感で演じていて、2人の姉妹役の子役との格の違いを見せ付けました。