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映画ノート

【映画】光りの墓

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光りの墓(2015
タイ、イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア
英語題:Cemetery of Splendor
監督/脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:ジェンジラー・ポンパット・ワイドナー、バンロップ・ロームノーイ、ジャリンパッタラー・ルアンラム

【あらすじ
タイの東北部。かつて学校だった仮設の病院には“眠り病”にかかった兵士たちが収容されている。ボランティアで身寄りのない兵士の世話をすることになったジェンは、魂と交信する娘ケンと知り合う。やがて病院のある場所が、大昔には王様の墓で、今も戦いの中にある古の兵士の魂が現世の兵士の力を吸い取っていることを知るジェンだったが…。

【感想
突然ですがみなさん睡眠時間はどのくらいですか?
宵っ張りの私は、2時くらいまで平気で起きてるので
平均4時間から4時間半といったところ。

人は寝ている間に、心身ともに修復を加えるんだそうで
睡眠はしっかりとらないといけない、、と わかっちゃいるんですけどね。

さて、今日紹介するのは、『ブンミおじさんの森』でパルムドールを獲得したタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の作品。
原因不明の「眠り病」にかかった兵士を収容する、もと学校の病院を舞台にしたファンタジードラマです。
兵士の間で蔓延する謎の「眠り病」が、古の王の墓に起因すると記した前情報から
スピリチュアルな映画を期待したんですがちょっと違いましたね(汗)
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主人公はボランティアで青年兵士の世話をする中年女性ジェン
ジェンの世話する青年はまもなく目を覚まし、ジェンとひと時を過ごすものの
会話中に電池が切れたように睡眠に戻ってしまう。
 


映画はそんなジェンの日常を淡々と描いて進むんですが、
なにやらシュールで「あれ?」な部分が多くなるんですね。

病院の建っている土地は王の墓があった場所で、兵士たちの眠り病もそこからという話も
ジェンが王朝時代の王女と名乗るユウレイ(?)から聞いただけで、真実は定かではない。
というか、その王女たちとの会話は本当にあったことなのか
兵士は本当に覚醒したのか、それらのすべてが現実かどうかわからない。


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治療器として導入されたオブジェ的なライトが自然光の中に放つ光が美しいのだけど
これもおそらく幻想。
空にミトコンドリア状の水の塊がプカプカ
ここまでくれば、鈍い私も流石にこれらは現実にあらずと気づくわけなんですが
この映画の場合はヒロインの「夢」ということでしょうね。
思えば森とジェンが一体になったポスターからこの映画は幻想だよと教えてくれていた気がしますね。


監督がインタビューで言っている「人は“睡眠”を通して現実から逃避する」というのは
この映画を読み解くキーワードでしょう。
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一時覚醒した青年兵士は、「退院したら兵隊をやめて月餅を作る」と夢を語る。
「眠り病」にかかる対象を兵士としたところに、監督の国政への危惧を感じます。
左右で長さの違う足を持つジェン自身も、ストレスを抱えた女性で、
アメリカ人との恋バナや、寝ている兵士の勃起、美容クリームのエピソードなどに
彼女の女としての渇望と現実逃避がうかがえるのは興味深いところ。
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凸凹に切り崩された砂埃の舞うグラウンドでサッカーを楽しむ子供たちを前に
ジェンがカっと目を見開くラストシーンは、「眠らないぞ!」との意思の表れ
そこに「現実から目をそらせるな」という監督の想いを感じたのでした。


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