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映画ノート

【映画】デンゼル・ワシントン監督&主演『フェンス』

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フェンス(2016 アメリ
原題:Fences
監督:デンゼル・ワシントン
脚本:オーガスト・ウィルソン
出演:デンゼル・ワシントンヴィオラ・デイヴィス /スティーヴン・マッキンレー・ヘンダーソン/ジョバン・アデポ /ラッセル・ホーンズビー/ミケルティ・ウィリアムソン

【あらすじ】
1950年代のピッツバーグ。ごみ収集員として家族を養うトロイだったが・・

【感想】
  アカデミー賞のノミネーションが発表になりましたね。
今日は作品賞主演男優賞デンゼル・ワシントン)、助演女優賞ヴィオラ・デイヴィス)、脚色賞にノミネートされた『フェンス』を観てきました。オーガスト・ウィルソンの有名な戯曲をデンゼル・ワシントン監督で映画化した家族ドラマです。
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舞台は50年代のピッツバーグデンゼル・ワシントン演じるトロイは黒人リーグで活躍したプロ野球の選手でしたが、学もなく、引退後はごみ収集員として妻子を養う日々。昔の栄光を誇りに思いつつも、社会的立場の弱い自分に憤りを感じています。ある日妻ローズから塀を立てることを依頼されたトロイはフットボールに没頭し家の手伝いを怠りがちな息子とともに作業しますが、息子との確執は深くなっていきます。トロイは息子が自分を超えるのではないかと嫉妬していて、また、プロの世界に入れば黒人差別に遭うことも危惧してるんですね。
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タイトルの『フェンス』はおそらくトロイの心のバリアを表すもの。
差別社会で押しつぶされながら生きるトロイは、自分の弱さを見せたくないから家族に威圧的にふるまう。自分を塀の中の王にすることで自尊心と劣等感のバランスに折り合いをつけているんでしょう。

先日トランプがメキシコとの国境に塀を建設する大統領令にサインしましたけど、この映画を観てなんとなく共通点を感じてしまった。トランプは移民を排除すればアメリカが良い国になると言っているけど本当にそうか?
シャットアウトしたつもりで、実は悪は壁の内側にあって、じわじわと人の心を浸食していく気がしてならないんですよね。
相手を理解することを拒み壁を作れば摩擦が生じる。
トロイが自分を遮断することで、家族の溝が深まっていくように。

ただし、映画はマイナスな面だけを描いて終わるわけではありません。
それをどう打破すべきかを示唆しているのが素晴らしいんです。
息子との喧嘩の中で、トロイが息子に突き飛ばされて塀にぶつかるシーンは象徴的でしょう。
トロイは壁を壊さなければならない。それはおそらくローズも同じ。

やがて外からやってきた、家族を脅かす存在に思えたものを受け入れることで、ローズは変わっていく。
最後はその存在(ネタバレしたくないのでこんな表現になりますが)が懸け橋となって、家族の確執を溶かしていく様子に感動します。これは家族の再生の物語。

ただ元が舞台劇ということで会話が多いんですね。
しかもデンゼルは驚くほどにセリフが多いんですが、強い南部訛りのため私には聞き取りにくく困りました。

50年代ほどではないにしろ、いまだに黒人差別がはびこるアメリカ。
昨年の「オスカー・ソー・ホワイト」も記憶に新しいところだけど、デンゼルが今これを映画化したのはそれに対抗する意味があったのかなと勝手に思ったり。

差別を叫ぶ前に、自分たちの渾身の演技で実力を示せばいい!!
デンゼルとヴィオラの演技にはそんな気概を感じます。
ちなみに二人はリバイバル版の舞台劇でも同じ役を演じ、揃ってトニー賞の主演男優賞、女優賞をとってるので、うまさは折り紙付き。
最後、スピリチュアルな意味合いで使われる「道をつける(あける)」という言葉にも、作り手の思いを感じます。
幻想的な演出にもしみじみ感動。今こそ観るべき映画ですね。

登場人物は誰も力強いパフォーマンス。映像もよかった。





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