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映画ノート

【映画】野のユリ

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野のユリ(1963)
Lilies of the Field

【あらすじと感想】
放浪中の自由人、黒人青年ホーマー・スミスはアリゾナで車の故障に遭い、通りがかったバロックで水をもらうことに。そこにはヨーロッパからやってきた5人の修道女が暮らしており、スミスは院長に大工仕事をオファーされる。
断り、立ち去ろうとするスミスだったが、懐の寂しさに思いなおし屋根の修理を手伝う。しかし賃金は支払われず、院長はさらに「教会を建てなさい」と無謀な要求をしてきた。院長にとって、スミスは神が遣わした助っ人だったのだ……。

 

『31 days of oscar 2021』祭り ーDay3

 

放浪中の黒人青年が、通りがかりの修道院で、教会建設の手伝いをするさまを、ユーモラスかつ清々しく描くヒューマンドラマの傑作です。監督は『ソルジャー・ブルー』のラルフ・ネルソン(『野のユリ』ではMr.アシュトン役でも出演)。

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今年93回目を迎えるアカデミー賞の長い歴史の中では、たくさんの「アカデミー史上初」がありますが、第36回目のアカデミー賞で、黒人で初めて主演男優賞に輝いたのが本作のシドニー・ポワチエ
黒人差別が残る1963年にあっては、これは画期的なことだったでしょう。

ポワチエと言えば、代表作の『夜の大走査線』や『招かれざる客』でも黒人差別が描かれていて、そういう作品で使われるのは黒人俳優の宿命ともいえる時代だったはず。ところが、『野のユリ』に関しては、差別描写が全くと言っていいほどないんですよね。

 

大きな夢を持ちながら、十分な教育を受けられなかったらしいスミスの背景に、それほど裕福ではなかったであろうバックグラウンドを匂わせはするものの、肌の色が黒いことも、修道女たちへの「英会話レッスン」の中で、「色」として教えるくらいで、差別の概念はゼロ。素朴で奔放なスミスはあくまでアメリカ人の象徴です。

 

彼はしぶしぶ始めた教会建設を通じ、東ドイツからの移民であるマリア院長やメキシコ人労働者と衝突しながらも、相手を理解し、互いに成長していきます。

修道院で提供される粗末な食事に不満をもらしながらも、シスターたちには礼儀正しく優しく接するスミス。
手振り身振りを交えた「英会話レッスン」の楽しさは「エイメン♪」とうたう黒人霊歌と並んで、この映画の最大の売りでしょう。

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明るく大らかなスミスと、無邪気なシスターたちの相性は抜群。英語の「Yeah!」とも微妙に発音の違う「ヤァー!」で心を通わせるさまも実に清々しいんですよね。

宗教や国籍が違っても、同じ人間同士、わかりあえないことはない。
「Yeah!」は平和の合言葉。

民族紛争の今こそ、世界中の人に観て欲しいと思う一本です。

 

ところで、本作の続編として、79年にTVムービー『Christmas Lilies of the Field』が製作されているのをご存じでしょうか。
同じラルフ・ネルソンが監督してるということで、YouTubeに投稿されてるものをチェックしてみました。

『野のユリ』の終盤のシーンをそっくり再現したあと、数年後にスミスが再び帰ってくるという物語なんですが早々にリタイアしてしまいました。

スミス役を演じるのは『スター・ウォーズ』シリーズのランド・カルリジアンで知られるビリー・ディー・ウィリアムズで決してB級な役者ではないんですが、オリジナルのスミスの大らかさがなくて、どうも楽しくない。

あらためてポワチエの魅力を確認した次第です。

【映画】時の面影

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時の面影(2021)
The Dig

【あらすじと感想】
第2次世界大戦が迫るイギリス、サフォーク州。未亡人のエディスは、自身が所有する土地にある墳丘墓を発掘するため、
経験豊富なアマチュア考古学者バジルを雇う。やがて彼らは、予想していたより遥かに古い時代の歴史的遺産を発見するが……。

 

『31 days of oscar 2021』祭りーDay2

 

イギリスの遺跡サットン・フーの遺跡発掘を巡る実話を題材にしたNetflixオリジナル作品です。監督は俳優出身のサイモン・ストーン。


オスカーにはノミネートされてないですが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演女優賞にノミネートされたキャリー・マリガンの主演作である点と
英国アカデミー賞で「英国作品賞」や「美術賞」「衣装デザイン賞」の候補に選ばれていることから、取り上げることにしました。

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キャリー・マリガン演じるエディスは考古学に興味があり、結婚とともに古墳の眠っていそうな広大な土地を所有するも、わずか一年で大佐だった夫に先立たれ、息子のロバートと、住み込みの執事や女中らと暮らしています。

プライドの高そうな執事に『日の名残り』を彷彿としますが、エディス自身はつましい服装に身を包み、穏やかな微笑みをたたえる素敵な女性。
しかし身体に異変を感じ、不安を覚える日々を過ごしています。

そんなエディスが所有地の遺跡発掘に乗り出したのは、亡き夫との約束を果たすためなのか、詳しくは語られませんが、彼女はラルフ・ファインズ演じる経験豊かな考古学者のバジルを雇い入れるのでした。

 

原題は『The Dig』
まさに、掘ること、発掘することを意味し、映画の中でも掘るシーンがたくさん出てきますが、「何かを求めて掘る」という、この言葉の本来の意味もタイトルの由来でしょう。

発掘が進み、思わぬ遺跡が顔を見せる一方で、エディスの身体は弱っていく。
息子に心配をかけたくなくて、病を隠し続けるエディス。
年端もいかぬロバートを遺して逝くことが辛すぎるのです。

でも、母親が案じるほど、彼は子供ではないのですよね。

やがて、エディスは息子の思いがけぬ成長を目の当たりにします。
その成長を助けることになるのが、エディスが誠実に育んできた周囲の人との関係であり、信頼できる人からのアドバイスでした。

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何千年もの時を過ごした遺跡に比べると、人の命など一瞬にすぎないかもしれないけれど、短い命だからこそ、丁寧に生きなきゃなと考えさせられます。

人が文化を生み、歴史を紡いでいくことを思うと、命もまた悠久の時の一部だということ。「遺跡を掘る」ことから知ることになる、これらのメッセージこそが映画の伝えたかった事でしょう。

 

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 ところで、原作者、あるいは監督は仏教徒だろうかと ふと思いました。
劇中、バジルが発掘現場で崩落に呑まれ、仮死状態に陥るシーンがあるんですが
人工呼吸で息を吹き返したバジルに、エディスが「(意識が戻る前に)何か見えた?」と問うのですよ。

「祖父の姿が浮かんだ」とバジル。
そのシーンから、仏教的な「お迎え」をイメージしてしまったのは私だけかしら。
死期が近いからこそ、エディスは死の間際の世界に興味を持ったのかなと。

そんなことを思いました。

面白いのは一連のやり取りの後、バジルがすぐに現場に戻り発掘を始めること。
そこは、最初にエディスが「掘って欲しい」と希望したにも関わらず、バジルが却下していた丘陵。
結果、その場所で世紀の発見がなされるわけで・・

バジルの祖父は彼に考古学の全てを教えた師だったことから、
これって「おじいちゃんのお導き?」と、さりげにスピリチュアルな展開を楽しんだのでした。

ともあれ
バジルとエディス、エディス母子、バジル夫妻、共演のリリー・ジェームズとジョニー・フリンなど、出演者それぞれの心情描写が丁寧で、戦争の時代を生きる人々のヒューマンドラマとして見ごたえあり。
映像も美しく、観た後に心が浄化された気になる作品でした。

『31 days of oscar』祭りを開催します

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先日アカデミー賞ノミネーションが発表されました。
大方前評判通りという印象ですが、どの作品がオスカーに輝くでしょうね。

 

TCMというアメリカのクラシック映画専門チャンネルでは、『31 days of oscar』と称し、毎年オスカー月に過去のアカデミー賞受賞作品を特集放送していました。

 

映画ファンとしては、これに乗じ、一年で最も楽しみなこの時期を盛り上げたい!
ということで、『31 days of oscar』祭りを開催します。

本年度のノミネート作品やら過去の受賞作品のレビューをはじめ、オスカー関連の記事を挙げる、「わたしスタイル」の「時々投稿」となりますが、一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。

 

Day1の今日は祭りの予告。それと・・

TCMの『31 days of oscar 2021』のラインナップを下記リンクで紹介しておきます。

原題のままですが、ごめんなさい。

何本くらいに観てますか?

 

 31 Days of Oscar 2021 (tcm.com)

【映画】ブラック・クランズマン

スパイク・リー監督による社会派コメディです。

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ブラック・クランズマン (2018)
BlacKkKlansman


【ストーリー】
1972年、ロン・ストールワースはコロラド州コロラド・スプリングズの警察署で黒人として初めて警察官に採用される。
情報部に配属されたロンは白人至上主義団体クー・クラックス・クランKKK)の新聞広告に電話をかけ、白人のレイシストを装ってKKK支部に入会するが・・

 

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黒人が白人のレイシストを装ってKKK支部に入会?

いや、おしろいを塗りたくっても流石に無理だろってことで
実際にはアダム・ドライヴァー演じる同僚の白人刑事が、本名で支部に電話をかけてしまったロンに代わってKKKに潜入する。
ロンは電話でのやりとりを担当し、つまり、白人、黒人の刑事2人でロン・ストールワースという人物を演じるというなんとも奇想天外なお話だけど、これが実話だというから驚きます。


主演の黒人刑事ロンを演じるジョン・デヴィッド・ワシントンは、デンゼル・ワシントンの息子らしい 。

『TENET テネット』は未見なので、初めて見る役者さんでしたが、父デンゼルほどハンサムではないけれど、どこか飄々としていて独特のユーモアを湛えているのがいいね。

コロラド・スプリングズ署初の黒人刑事として採用され、署内でも差別に遭う役どころだけど、ロン本人は社会の役に立ちたいと思っているまじめな青年で、それまで差別を感じることなく暮らしていたらしいあたり、実生活はセレブに違いないジョン本人に通じるところがある。絶妙なキャスティングといえます。

ちゃんとした教育を受けており、黒人だけど白人訛りを使いこなすのが自慢で、電話で会話しても黒人とバレない。
黒人の発音をアダム・ドライヴァーに教えたりするシーンは爆笑もので、このあたりの笑いのセンスは、製作のジョーダン・ピールの功績でしょう。
それでも、潜入捜査につきものの緊張感はちゃんとあって、緩急のバランスよく映画として面白いです。

舞台は70年代だけど、映画は明らかに分断を強めたトランプ政権を揶揄してますね。
人種差別は70年代の頃からちっとも変わっていない。いやますます酷いじゃないかというメッセージかな。

最後の実録映像には虚無感にも苛まれるものの、どうしても黒人の一方的な目線を感じてしまtって。そこがちと残念。

日本人は、マイノリティ意識を持たずに済んでいるのは、幸せなことですよね。

 

映画データ
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:スパイク・リー
脚本:スパイク・リー/デヴィッド・ラビノウィッツ/ケヴィン・ウィルモット/チャーリー・ワクテル
原作:ロン・ストールワース
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン/アダム・ドライヴァー/ローラ・ハリアートファー・グレイス

 

【映画】ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

ゴールデン・グローブ賞が発表されましたね。
おおかたの予想と少し違う結果だったようにも思いますが、アカデミー賞はどうでしょうね。

私はというと、前年度のオスカー関連作品をやっと観ているところでして
今日は作品賞、脚色賞、主演女優賞など7部門にノミネート(衣装デザイン賞を受賞)された『ストーリー・オブ・マイライフ』の感想を。

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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語 (2019)
Little Women


【ストーリー】
1869年、マーチ家の次女ジョーはボストンの実家を離れ、一人ニューヨークに暮らしている。家庭教師をしながら、小説家になるべく執筆活動に励むジョーは、家族で過ごした故郷ボストンでの日々を回想する。

 

アメリカの女性作家ルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説『若草物語』を、グレタ・ガーウィグが監督/脚本し、映画化した一本です。

今回ジョーを演じるのは、初監督作品の前作『レディ・バード』でも主演したシアーシャ・ローナン。『レディ・バード』はグレタ嬢の半自伝的作品と言われていて、シアーシャの動きがグレタを思わせるところがあったのだけど、本作のジョーもどこかグレタっぽさを感じるところがあるんですよね。

おそらくですけど、グレタは 物書きとして自立しようと頑張るジョーに自身を重ねたんじゃないかな。

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女性が自身の力で経済的に自立するのが困難だった時代に、小説家として成功したジョーは男性社会である、アメリカの映画監督業界で奮闘するグレタ、そのもの。
だからニューヨークの街を颯爽と駆け抜けるジョーにもグレタを感じるし
ラストシーンで『若草物語』を装丁する過程を丁寧に見せ、満足げにほほ笑むシアーシャには、グレタの映画人としての達成感みたいなのを感じ、清々しいものがありました。

せわしなく時間軸が交錯するのは、序盤、わかり難いと感じたけれど
姉妹それぞれの成長や変化を意識しやすかったので、それもありかな。

最近は水彩画に興味を持っていて
映画のワンシーンを素敵に描けるようになりたいと思ってるんですが
本作には描きたいと思う美しいシーンがいっぱい出てきて、心が躍りまくりました。

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女性好みかもしれないけれど、個人的には、『パラサイト~』や『1917 命をかけた伝令』よりも本作が好き。
満足な一本でした。

 

映画データ
製作年:2019年
製作国:アメリ
監督/脚本:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナンエマ・ワトソン/フローレンス・ピュー/エリザ・スカンレン/ローラ・ダーンティモシー・シャラメメリル・ストリープ/トレイシー・レッツ/ルイ・ガレルクリス・クーパー