しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】野のユリ

f:id:puko3:20210328110441j:plain

野のユリ(1963)
Lilies of the Field

【あらすじと感想】
放浪中の自由人、黒人青年ホーマー・スミスはアリゾナで車の故障に遭い、通りがかったバロックで水をもらうことに。そこにはヨーロッパからやってきた5人の修道女が暮らしており、スミスは院長に大工仕事をオファーされる。
断り、立ち去ろうとするスミスだったが、懐の寂しさに思いなおし屋根の修理を手伝う。しかし賃金は支払われず、院長はさらに「教会を建てなさい」と無謀な要求をしてきた。院長にとって、スミスは神が遣わした助っ人だったのだ……。

 

『31 days of oscar 2021』祭り ーDay3

 

放浪中の黒人青年が、通りがかりの修道院で、教会建設の手伝いをするさまを、ユーモラスかつ清々しく描くヒューマンドラマの傑作です。監督は『ソルジャー・ブルー』のラルフ・ネルソン(『野のユリ』ではMr.アシュトン役でも出演)。

f:id:puko3:20210328111442j:plain

今年93回目を迎えるアカデミー賞の長い歴史の中では、たくさんの「アカデミー史上初」がありますが、第36回目のアカデミー賞で、黒人で初めて主演男優賞に輝いたのが本作のシドニー・ポワチエ
黒人差別が残る1963年にあっては、これは画期的なことだったでしょう。

ポワチエと言えば、代表作の『夜の大走査線』や『招かれざる客』でも黒人差別が描かれていて、そういう作品で使われるのは黒人俳優の宿命ともいえる時代だったはず。ところが、『野のユリ』に関しては、差別描写が全くと言っていいほどないんですよね。

 

大きな夢を持ちながら、十分な教育を受けられなかったらしいスミスの背景に、それほど裕福ではなかったであろうバックグラウンドを匂わせはするものの、肌の色が黒いことも、修道女たちへの「英会話レッスン」の中で、「色」として教えるくらいで、差別の概念はゼロ。素朴で奔放なスミスはあくまでアメリカ人の象徴です。

 

彼はしぶしぶ始めた教会建設を通じ、東ドイツからの移民であるマリア院長やメキシコ人労働者と衝突しながらも、相手を理解し、互いに成長していきます。

修道院で提供される粗末な食事に不満をもらしながらも、シスターたちには礼儀正しく優しく接するスミス。
手振り身振りを交えた「英会話レッスン」の楽しさは「エイメン♪」とうたう黒人霊歌と並んで、この映画の最大の売りでしょう。

f:id:puko3:20210328110749j:plain

明るく大らかなスミスと、無邪気なシスターたちの相性は抜群。英語の「Yeah!」とも微妙に発音の違う「ヤァー!」で心を通わせるさまも実に清々しいんですよね。

宗教や国籍が違っても、同じ人間同士、わかりあえないことはない。
「Yeah!」は平和の合言葉。

民族紛争の今こそ、世界中の人に観て欲しいと思う一本です。

 

ところで、本作の続編として、79年にTVムービー『Christmas Lilies of the Field』が製作されているのをご存じでしょうか。
同じラルフ・ネルソンが監督してるということで、YouTubeに投稿されてるものをチェックしてみました。

『野のユリ』の終盤のシーンをそっくり再現したあと、数年後にスミスが再び帰ってくるという物語なんですが早々にリタイアしてしまいました。

スミス役を演じるのは『スター・ウォーズ』シリーズのランド・カルリジアンで知られるビリー・ディー・ウィリアムズで決してB級な役者ではないんですが、オリジナルのスミスの大らかさがなくて、どうも楽しくない。

あらためてポワチエの魅力を確認した次第です。