しまんちゅシネマ

映画ノート

【映画】時の面影

f:id:puko3:20210325150307j:plain

時の面影(2021)
The Dig

【あらすじと感想】
第2次世界大戦が迫るイギリス、サフォーク州。未亡人のエディスは、自身が所有する土地にある墳丘墓を発掘するため、
経験豊富なアマチュア考古学者バジルを雇う。やがて彼らは、予想していたより遥かに古い時代の歴史的遺産を発見するが……。

 

『31 days of oscar 2021』祭りーDay2

 

イギリスの遺跡サットン・フーの遺跡発掘を巡る実話を題材にしたNetflixオリジナル作品です。監督は俳優出身のサイモン・ストーン。


オスカーにはノミネートされてないですが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で主演女優賞にノミネートされたキャリー・マリガンの主演作である点と
英国アカデミー賞で「英国作品賞」や「美術賞」「衣装デザイン賞」の候補に選ばれていることから、取り上げることにしました。

f:id:puko3:20210325150348j:plain

キャリー・マリガン演じるエディスは考古学に興味があり、結婚とともに古墳の眠っていそうな広大な土地を所有するも、わずか一年で大佐だった夫に先立たれ、息子のロバートと、住み込みの執事や女中らと暮らしています。

プライドの高そうな執事に『日の名残り』を彷彿としますが、エディス自身はつましい服装に身を包み、穏やかな微笑みをたたえる素敵な女性。
しかし身体に異変を感じ、不安を覚える日々を過ごしています。

そんなエディスが所有地の遺跡発掘に乗り出したのは、亡き夫との約束を果たすためなのか、詳しくは語られませんが、彼女はラルフ・ファインズ演じる経験豊かな考古学者のバジルを雇い入れるのでした。

 

原題は『The Dig』
まさに、掘ること、発掘することを意味し、映画の中でも掘るシーンがたくさん出てきますが、「何かを求めて掘る」という、この言葉の本来の意味もタイトルの由来でしょう。

発掘が進み、思わぬ遺跡が顔を見せる一方で、エディスの身体は弱っていく。
息子に心配をかけたくなくて、病を隠し続けるエディス。
年端もいかぬロバートを遺して逝くことが辛すぎるのです。

でも、母親が案じるほど、彼は子供ではないのですよね。

やがて、エディスは息子の思いがけぬ成長を目の当たりにします。
その成長を助けることになるのが、エディスが誠実に育んできた周囲の人との関係であり、信頼できる人からのアドバイスでした。

f:id:puko3:20210325150437p:plain


何千年もの時を過ごした遺跡に比べると、人の命など一瞬にすぎないかもしれないけれど、短い命だからこそ、丁寧に生きなきゃなと考えさせられます。

人が文化を生み、歴史を紡いでいくことを思うと、命もまた悠久の時の一部だということ。「遺跡を掘る」ことから知ることになる、これらのメッセージこそが映画の伝えたかった事でしょう。

 

f:id:puko3:20210325150540j:plain

 ところで、原作者、あるいは監督は仏教徒だろうかと ふと思いました。
劇中、バジルが発掘現場で崩落に呑まれ、仮死状態に陥るシーンがあるんですが
人工呼吸で息を吹き返したバジルに、エディスが「(意識が戻る前に)何か見えた?」と問うのですよ。

「祖父の姿が浮かんだ」とバジル。
そのシーンから、仏教的な「お迎え」をイメージしてしまったのは私だけかしら。
死期が近いからこそ、エディスは死の間際の世界に興味を持ったのかなと。

そんなことを思いました。

面白いのは一連のやり取りの後、バジルがすぐに現場に戻り発掘を始めること。
そこは、最初にエディスが「掘って欲しい」と希望したにも関わらず、バジルが却下していた丘陵。
結果、その場所で世紀の発見がなされるわけで・・

バジルの祖父は彼に考古学の全てを教えた師だったことから、
これって「おじいちゃんのお導き?」と、さりげにスピリチュアルな展開を楽しんだのでした。

ともあれ
バジルとエディス、エディス母子、バジル夫妻、共演のリリー・ジェームズとジョニー・フリンなど、出演者それぞれの心情描写が丁寧で、戦争の時代を生きる人々のヒューマンドラマとして見ごたえあり。
映像も美しく、観た後に心が浄化された気になる作品でした。