しまんちゅシネマ

映画ノート

ミツバチのささやき


1973年(スペイン)監督:ヴィクトル・エリセ出演:アナ・トレント/イザベル・テリェリア/フェルナンド・フェルナン・ゴメス【ストーリー】スペインのとある小さな村に「フランケンシュタイン」の巡回映画がやってくる。6歳の少女アナは姉から怪物は村外れの一軒家に隠れていると聞き、それを信じ込む。そんなある日、彼女がその家を訪れた時、そこで一人のスペイン内戦で傷ついた負傷兵と出合い……。
■感想
スペイン内戦の時代、6歳の少女アナが体験する現実と空想の交錯した世界を繊細に描き出した秀作です。

いつも名作映画を紹介してくれるMijahさんに教えていただいた作品です。
時代背景と少女の空想というところでパンズ・ラビリンスにも通じるところがあり、
「パンズ~」のオフェリアを演じたイバナ・バケロはこの「ミツバチのささやき」の主人公アナの再来と言われているようです。

これはとっても文学的な作品のように思いました。

叙景的な美しい映像に浮かび上がるのは、ノスタルジックなスペインの村の風景。

果てしなく続く黄色い大地は青い空に溶け込みます。

主人公アナは6歳。姉のイザベルと村の巡回映画で「フランケンシュタイン」の映画を観ます。
映画の中で、アナと同じくらいの少女が殺され、フランケンシュタインもまた村人に殺される。。。


アナの頭の中は映画でいっぱいになりました。

「なぜ少女は殺されたの?」

姉に問い続けるアナ。

そんなアナに姉イザベルは「少女は死んでいないし、フランケンシュタインも死んでない。彼は精霊なのだ」と教えます。




これは、少女のなかで生まれた「生と死の概念」を描いた作品でしょうか。

映画の中の「死」に始まり、多くの「死」に関わることが出てきます。

父と探すキノコ狩りでみつけた毒キノコ
姉イザベルの”死んだフリ”ごっこ
耳を近づける線路。迫り来る列車。
養蜂家である父のミツバチの研究、彼らの生態と死
猫の首を絞めるイザベル、そして精霊が住むという小屋で出会った脱走兵の死・・・。



「精霊ってなに?」

「いい子にはいい精霊、悪い子には悪い精霊・・・」と母。
「精霊と友だちになるためには、ただじっと目を閉じ、「私はアナ」と話しかけるの」と姉。

妄想の中でフランケンシュタインと遭遇するアナが恐怖に唇を震わせながらも
じっと目を閉じる姿が印象的。

思い出せば、幼い頃には、自分のまわりにいろんなオバケがいたかもなぁ。
お人形さんごっこも一種の妄想かもしれない。


映画を観ていると、懐かしいような、ほろ苦いような、色んな思いが込み上げてきました。


言葉による説明はほとんどない。

語る言葉の一つ一つ、画面の全てが大きな意味合いを持つ作品。

多分、観るたびに色んな発見がありそう。

アナの大きく無垢な瞳、演技ではなく、少女の存在こそがこの映画の全て。凄い!

戦争の時代というのも押さえておくべきところでしょう。母の書き続ける手紙は誰のもとへ?
列車の窓から見える兵士たちの顔。人がみな、何かを無くし、何かを求めていた、そんな時代だったのかも。

これ、いいですよ!



★★★★☆