しまんちゅシネマ

映画ノート

しあわせな孤独


2002年(デンマーク)監督・原案:スザンネ・ビア出演:ソニア・リクター/マッツ・ミケルセン/ニコライ・リー・コス/パプリカ・スティーン/スティーネ・ビェルレガード【ストーリー】女性コックのセシリと博士号取得を目指す大学生ヨアヒムのカップルは、結婚を間近に控えていた。だがある日、セシリの目の前でヨアヒムが交通事故に見舞われる。そして、彼は病院で一命を取り留めるも、全身不随になってしまう。ヨアヒムを轢いたのは、この病院の医師ニルスの妻マリーだった。彼女は助手席に座っていた娘スティーネと口論中、前方不注意で事故に至った。事故以来、絶望感から心を閉ざし、セシリまで受け入れなくなるヨアヒム。傷つき打ちひしがれるセシリ。そんな彼女の支えになろうとニルスは優しく接するのだったが…。
■感想
またまたスザンネ・ピアにやられちゃいました。

この監督さん、人間の底にある真相心理を描かせたらピカ一でしょう。とにかく深い。しかもリアルで痛い。
サドなの?と言いたくなるくらい、人のエゴとか弱さなんかをえぐってくるんですよねぇ。

結婚を目前に控えたセシリとヨアヒム。彼らはしあわせの絶頂にありました。
ところがある日、そのセシリの目前でヨアヒムが交通事故に遭い、脊髄損傷で首から下の機能を奪われてしまうのです。


将来を断たれたヨアヒムは絶望感に襲われ、怒りと悲しみから心を閉ざします。
このような危機的状況に陥った人が辿る心理過程は理解できます。
ヨアヒムはセシリに会うことさえも拒否するのですが、
セシリは「絶望感を感じ、哀しいのは私も同じなのに、ヨアヒムは自分のことしか考えていない」と嘆きます。
自分のことしか考えてないのはどっちだ!と言いたくなるのだけど、それが生身の人間なのかもしれない。。

悲しみの底にあるセシリの悩みを聞くうちに次第にセシリに惹かれていく加害者の夫ニルス。
ニルスが医者でなかったら、こういう風に接近することはなかったかもしれません。
悲しみの淵にあるセシリの心を癒そうとするのも、医者であるがゆえ。これまた必然と思えるのですよね。

心に残ったことの一つが、ヨアヒムとナースとの関係です。
絶望を感じ、心にゆとりのないヨアヒムは、ある日担当ナースに酷い言葉を発します。
そしてナースもまたヨアヒムに言ってはいけないことを言ってしまう。
言葉はナイフのように人を傷つけます。普段なら言わずにすむことをつい言ってしまう。
人間の弱いところでもあります。でも傷つけられて初めて人の痛みも分かるのかもしれません。
そんな汚い部分を見せ合ったヨアヒムとナースの間に、最後には深い人間関係が築かれているように感じました。


これ、たんなる不倫のお話と観てしまうと、なんだかなぁという感じかも知れません。
でもセシリとニルスだけでなく、その家族、そしてヨアヒムの葛藤、それぞれの選択が
じつに生々しく描かれていて、思わず唸ってしまうのです。
案外女の方がエゴイストで計算高い生き物かもです。

一番辛かったのはやはりヨアヒムの決断でした。
笑顔を浮かべて病室を去るセシリを見送るヨアヒム。ドアがパタンと閉じた途端に私の方がワッと泣けてしまいました。

でもセシリはまだ23歳。
まだ結婚前のヨアヒムに一生を捧げることが出来るのか‥否。
自己チューとも言える選択に憤りを覚えたとしても、彼女を責めることはできない。
きれいごとで終わらせないところが、この監督の凄いところです。

劇中、彼らの心の中を投影するため、独特の撮影技術を使っていたのが印象的で
本当は手を伸ばしてセシルと手を取り合いたい、だけど現実は‥。その対比は切ないものでした。

セシリにソニア・リクター
セシリと不倫の仲になってしまう医師ニルスに「アフター・ウェディング」のマッツ・ミケルセン
ヨアヒムに「ある愛の風景」の弟役ニコライ・リー・コス





★★★★☆