しまんちゅシネマ

映画ノート

フロスト×ニクソン


2008年(米)監督:ロン・ハワード出演:フランク・ランジェラマイケル・シーンケヴィン・ベーコンレベッカ・ホールトビー・ジョーンズ   マシュー・マクファディンオリヴァー・プラットサム・ロックウェル/ケイト・ジェニングス・グラント【ストーリー】1974年。アメリカの歴史上、初めて任期途中で自ら職を辞した大統領という不名誉な称号を背負うことになったリチャード・ニクソン。その後は沈黙を守り、国民は彼の口から謝罪の言葉を聞けずにいた。その頃、英国の人気テレビ司会者デビッド・フロストは、全米進出の野望を抱いていた。そこで目を付けたのがニクソンの単独インタビュー番組というものだった。フロストは莫大な借金を抱え込みながらも番組を自主制作。ようやくニクソンの単独インタビューには漕ぎ着けるのだが…。
■感想

黒く塗りつぶせ!アカデミー&インディペンデントスピリット賞

今日はアカデミー賞で作品賞と主演男優賞(フランク・ランジェラ)にノミネートされた『フロスト×ニクソン』です。

ウォーターゲート事件」で大統領任期中に辞任した、リチャード・ニクソン
限りなくグレーな存在でありながら、沈黙を守り通した彼は法的に罰せられることもなく
事件関与の真相も、彼の罪の意識も闇に葬られた状態だったんですね。

ニクソンの辞任の生映像を目にし、イギリスのTV番組の司会者フロストは大胆にもニクソンへのインタビューを企画します。
彼の目的はニクソンから事件の関与の有無を聞き出し、国民に謝罪させること。
一方ニクソンもイメージを回復し政界への返り咲きを図るチャンスと、インタビューに応じるのです。
両者の思惑を乗せたインタビューの行方は。。

いや~、これは面白かったです。
この世紀のインタビューが緊迫感たっぷり。どちらも失敗すれば明日がないわけですから。

マイケル・シーン演じるフロストは、野心家であるけれど、一方でかなりの楽天家。
ニクソン辞任の生映像から、その心の闇を読み取り、視聴率に現れる全世界の関心の高さに目をつける洞察力が強みですが
ある意味、火事場の馬鹿力的なパワーで乗り切るタイプで、大胆さと弱さを兼ね備えた人だったように思います。

フロスト側のプロデューサーを『プライドと偏見』のマシュー・マクファディンが穏やかに演じていて好感が持てました。
フロストを信じ、支える彼の存在無しにはインタビューの実現はなかったでしょうね。

一方、ニクソンの側近をケヴィン・ベーコンが演じていますが、
大統領を辞したニクソンに、ここまで仕えなければならないのかと最初は違和感を覚えていました。
でも終盤になり、ニクソンは実は守るべきものを大切にする人間だったのではないかと思うようになり、
彼を支えようとするベーコンの関係も理解できるような気がしました。

その後ニクソンは二度と政界に復帰することはなく、結果的にインタビューは彼の政治家生命を奪ったけれど、
インタビューがなければニクソンは、生涯心に闇を抱え続けたことでしょう。
肩の重荷をちょっとだけおろした、ニクソンの終盤のおだやかな表情が印象的です。
ニクソンを演じたランジェラは、いわゆるそっくりさん的に演じた訳ではないのだけど、
ニクソンという人の野心のみならず、心に潜む孤独感や後悔の念、誠実さなどの色んな側面を演じ切った点は本当に見事で、あらためて賞讃の拍手を送りたいですね。

緊迫感のあるインタビューシーンは勿論観応えがありましたが、ニクソン、フロスト両者の葛藤を詳細に描き、
闘いの終ったラストには穏やかな後味を残したロン・ハワードの監督としての手腕も流石です。
素晴らしい作品だったと思います。



★★★★*