しまんちゅシネマ

映画ノート

戦場でワルツを


2008年(イスラエル//フランス/ドイツ)監督/脚本/声の出演:アリ・フォルマン
■感想

黒く塗りつぶせ! アカデミー&インディペンデントスピリット賞

今日は アカデミー以外のほとんどの外国語映画賞を総なめにした イスラエルのアニメーション作品『戦場でワルツを』。

これは1983年のレバノン戦争を描いた、ドキュメンタリー映画なんですね。

冒頭、街中を狂ったように走り抜ける26匹の犬の映像。
それは主人公の友が語る悪夢の内容で、20年たった今も戦争の幻影として支配していることが後にわかってきます。

友に「お前はあの時の夢を見ないのか?」と聞かれた主人公(‥この主人公が映画の監督フォルマン)は
その日以来、戦争中のある幻想的な夢を見るようになります。
ところがフォルマンは、それがどういった場面なのかを覚えていない。
彼は戦争の記憶が欠落していることに気付きます。

自分はなぜ戦争のことを覚えていないのか。。
彼はかつての戦友達を訪ね歩き、失った記憶を埋めようとします。

その過程で知ることになる、衝撃的な事実とは。。


うーん、これは凄い作品でした。

イスラエル兵として1983年のレバノンへの侵攻に関わったフォルマン監督。
映画は彼の失われた記憶をひも解く旅でもありました。

この映画を観るにあたっては、レバノン戦争についての知識が最低限必要です。
私もいつものように概要を事前に入れて観てみたのですが、まだまだ不十分ではありました。

原題にあるバシールというのは1982年レバノン軍団から大統領に就任し、カリスマ的人気を誇りながら、就任の翌月に爆弾で暗殺されたバシール・ジェマイエルのこと。
パレスチナ難民キャンプの大量虐殺につながる、このあたりの歴史についてはしっかりと頭に入れて観ることをお薦めします。

虐殺を黙認したとして、国際的に非難をあびたイスラエル
この映画は、当時のイスラエル兵士の視点で描かれている点で、とても興味深い作品と言えますね。

しかしながら、監督が20年以上も抹殺してきたその記憶の全体が見える時、
それは大きな衝撃であり、深い哀しみに包まれます。
最後に実際の映像が映し出されると、涙が止まらなくなりました。


映画の中で、戦場で活躍するカメラマンの話しが引用されます。
目の前に広がる残虐な光景を、彼はファインダーを通すことによって架空のことのように捉えようとしていた。
しかし、アクシデントでカメラを壊してしまったカメラマンは、肉眼で戦争の惨状を観ることになり、精神のバランスを壊してしまったのだとか。

本作がモノクロに近いアニメーションで描かれたことは、幻想的なシーンを可能にしたことの他に、
カメラマンのファインダーのように、衝撃にクッションを与える役割も果たしていたように思います。




日本でも公開が決まっているとのこと。
おくりびと』ももちろん良かったですが、個人的にはこちらに軍配。
ぜひ観てほしい作品です。
あ、子供ちゃんと一緒に観てはダメですよ~。



★★★★*