しまんちゅシネマ

映画ノート

鬼が来た!


2000年(中国)
監督:チアン・ウェン
出演:チアン・ウェン/香川照之/チアン・ホンポー/ユエン・ティン/ツォン・チーチュン/チェン・シュー/澤田謙也/宮路佳具
 
カンヌ特集 8本目
カンヌで審査員特別グランプリを受賞した中国の作品です。
第2次世界大戦の終結が迫りつつあった1945年の旧正月直前。中国寒村。
深夜、青年マー・ターサンのもとに“私”と名乗る男が現れ、拳銃を突き付け2つの麻袋をマーに押しつける。
中にはそれぞれ、日本兵と通訳の中国人が入れられていた。
“私”はそれを晦日まで預かるよう脅して去っていった。マーは慌てて村の長老たちに相談する。
もし日本軍に見つかれば村人の命はない。結局約束の日まで2人を匿うことになる・・・
(allcinemaより)
これは太平洋戦争下、ある小さな村に起きた、奇妙な出来事として描かれてるんですが
麻袋に入れられた日本兵の花屋を演じるのがなんと香川照之
彼は捕虜となり生きることを恥じ、「殺せ~!」とわめくのだけど、中国人には通じません。



「中国人を殺したか?女を冒したか?」との長老の質問にも、花屋は「殺した!冒した!」と答えるのだけど
巻き添えを食らって殺されるのを恐れる通訳は、いちいち「誰も殺してません。冒してません。助けてください」と通訳するのが笑えます。
その後も汚い言葉で中国人をののしろうとする花屋に、あえて友好的な言葉を教え込み
ののしってるつもりが「新年おめでとうございます」なんて言っちゃう花屋w
 
で、村人は花屋に好感をもってしまい、なんと6ヶ月に渡って彼らの世話をすることに。
日本兵に見つかれば自分たちの命はないわけで、村人にとって爆弾を抱えてるようなもの
さてさて、花屋の運命はというお話
 
花屋と村人の交流に微笑ましいものを感じる前半
ところが、終盤では思わぬカオスな展開に衝撃を受け唖然としてしまいました。
 
 
 
監督がこの映画で描きたかったのはなんでしょう。
残忍で愚かな日本兵の描き方に、私たち日本人は痛いものを感じるところだけど
監督自身は単に日本兵というよりも、戦争そのものの愚かさ、本質を描こうとしてるのだと思いました。
 
今やパチンコ屋のテーマソングとなった軍艦マーチを演奏して闊歩する軍の鼓笛隊のマーチングに
子供たちは思わず体をくねらせて音頭をとるほど大好きな様子
鼓笛隊の隊長も子ども好きでお菓子をあげたりするのが楽しみな温和な人間。
それだけに、終盤の彼の行動に一番ショックを受けるわけで
命令されれば従う、そこに個人の感傷を入れる余地はなく、それが戦争なんだと思い知らされます。
 
ところで『鬼が来た!』のタイトルの鬼って誰?
おそらくは村人にとんでもない不幸をもたらした麻袋を運んだ人物を指しているのでしょう
でもその人物は顔を見せることなく、その後一切登場しません。
つまりは、不幸を運ぶのは戦争そのもの、戦争に翻弄され人間性を失った人々というメタファーなんでしょうね。
 
ラストシーンもまた衝撃です。
画面はそれまでのモノクロからカラーに変わり
とんでもない状態になった、監督である主人公のマー(チアン・ウェン)がニヘリと笑うんですよw
どや 戦争ってこんなもんだぞ って言ってるようで
おかしみともどかしさに、妙な気持ちになっちゃいました。

香川さんは日本兵らしいキビキビとした動きがうまい。
軍の仕官はやくざに見えたけど、兵士にとってどれだけ絶対的かを思い知らしめる存在感
 
コミュニケーションの行き違いがもたらす不幸を描いた作品だとも言えるかな。
 
ちなみにこの作品、麻袋を運んだ謎の人物の描き方に問題があるとして国から修正を求められたにも関わらず
そのままカンヌに出品したとして、中国国内では上映禁止の処分を受けたそうです。
監督さんの一昨目の作品も上映禁止だったとのこと。
中国では問題児扱いかもしれませんが、なんか面白いぞこの監督!