しまんちゅシネマ

映画ノート

『ウィンターズ・ボーン』(サンダンス・グランプリ作品)


2010年(アメリカ)
監督:デブラ・グラニ
出演:ジェニファー・ローレンス/ギャレット・ディラハント/ジョン・ホークス/ケヴィン・ブレズナハン/デール・ディッキー
   
■感想
今年のサンダンス映画祭、ドラマ部門でグランプリと脚本賞を獲得した『ウィンターズ・ボーン』を観てきました。
映画の舞台になるのが、ミズーリ州のオザーク高原というところ
痩せた山岳地帯であるこの地域は、全米でも最低レベルの貧困地帯で
ここに暮らす人々はいわゆるヒルビリーと呼ばれる山の民です。
主人公のリーは、極度のうつ状態で廃人同様の母と幼い弟妹と、ここに暮らす17歳の少女。
父親は麻薬違法精製のかどで捕まり服役中とあって、家族の世話は全てリーの肩にかかっている状態。
勿論暮らしは貧しく、食べるものにも困る有様です。
 
そんな冬のある日、保安官がやってきて
「お前の父親は裁判を放棄し失踪した。家は保釈金の担保となってるから
父親が現れなければこの家を没収する」と、リーに告げるんですよ。
 
それでなくてもどん底の暮らし、この上家まで奪われれば家族は離れ離れになるしかない。
そこでリーは地域に住む親戚に父親の消息を尋ねて回るのですが、親戚たちは苦い表情を見せます。
どうやら、リーの父親探しは、彼らにとってもやばいことらしいのです・・・。
 

もうね、小さい子供もペットも家畜もみんなお腹を空かせていて、
幼い子供がリスまで獲って食べなければいけない極貧なんですよ。
こういう人たちを守る国のシステムはないのかと悲しい思いで観てました。
 
家族を守るため、一人奮闘するリーが痛々しくてね。17歳ですよ(涙)
やがてリーは父親は既に死んでいることをうっすら知ることになるんだけど
保安官はそれならそれで、父親の死体を持ってきて証明しろと・・・。
それがタイトルの意味に通じると分かったときには、はぁ~とため息が出ちゃいました。
 
悲しすぎるお話ながら、映画はリーの父親探しをスリリングに、かつ衝撃的に描きつつ
同時に彼女の成長を暖かな視線でみつめていて、
地味ながらも、小さな希望を模索する珠玉のヒューマンドラマに仕上がっています。
フローズン・リバー』『プレシャス』しかり。

こういうのを世に出してくれるのがサンダンスですね。
本作もアカデミーに絡んでくるか。期待が高まります。
 
リーを演じたジェニファー・ローレンスは『あの日、欲望の大地で』で、ヴェネチアの新人俳優に贈るマストロヤンニ賞を得てますが、本作ではオーディションを勝ち抜いてリーの役を得たんだそうです。
強くあらねばと自分を奮い立たせながらも、どうしようもない心細さに揺れる17歳のリーを演じ、見事でした。
オスカーノミネートもありだと思います。

ロケ地はオザーク高原で、映画で使われたリーの家は、妹を演じた女の子が実際に住む家だそうで
当初弟二人という設定だったのを変更し、この家の女の子を妹役に抜擢したんですって。
シンデレラガールになるかも。
でもこの映画が有名になることに、地域の人は複雑な思いを持つでしょうね。
せめてなにかの支援を受けられれば・・と思います。
貧しさが犯罪を生む、この悪のサイクルを止めなければ、国の未来はないですよね。
 
ちなみになぜこんな痩せた地域に人が住むことになったのか、ヒルビリーと呼ばれるこの貧困地域のことについて、映画評論家の町山さんがここで詳しく語ってくれていて、とても興味深く聞かせていただきました。
この土地の歴史を知れば、この土地の閉塞感や奇妙な一体感も一層理解しやすいと思いますね。
 
日本公開は今のところ未定です